第三十二話 新たな一手

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 ごくんと飲み込んで前を向くと、ちょうどお父さまも口に含むところだった。 「おお……」  あまり顔に大袈裟な感情をのせない人だけれど、お父さまは目元を綻ばせた。 「柔らかいな。それに、塩だけでもいくらでも食べられそうだ」 「ふふっ。これは特にできが良いものなんです」 「しかし、これは一体なんだ? 初めて食べる味だが……」 「もうすでにお父さまも知っているものですわ」 「はて……。思い当たるものはないが……」  お父さまは首を捻った。 「強いていえば、味は麦のような仄かな甘味があるな。だが匂いは根菜のような土を感じる香りもある。ーーそれにかなり腹に溜まりそうだな」  わたしは頷いた。  お父さまでも三つ食べれば満腹になるだろうし、わたしらひとつを平らげるのもやっとだ。  とても好意的に受け止めているお父さまの様子を見てほっとする。 (これなら、きっと上手くいくわ……。彼(・)にアドバイスを貰えてよかった)  もう一度ジェーンにお願いして、この正体を持ってきてもらうことにした。 「今お食べいただいたのは、これなのです」  扉が開いて、庭師の手で持ち込まれたものを見て、父は目を見開いた。 「これはーー」    ⌘ ⌘ ⌘
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