第三十二話 新たな一手

3/10
131人が本棚に入れています
本棚に追加
/224ページ
 目の前に持ち込まれたのは、ディランが見つけたあの紫の花が咲く植物だった。  これは庭師に頼んで、部屋に運び込めるように鉢に植えてもらったもの。  庭師は床を汚さないよう、布を広げた上に鉢を置いた。  今は季節を過ぎてしまったので、だいぶ葉がしょんぼりと力を失い、色味も黄色く枯れてしなだれている。 「これが……?」 「はい。正確に申し上げれば、この植物の根(・)にできる部分です」  わたしが合図すると、庭師は根本から思い切りよく植物を引っこ抜いた。  それまで土に埋もれていた部分。  軽く土を払うと、ゴロリと手のひら大の茶色い歪な丸い物体が、いくつも細いひげ根に絡みつつ掘り出された。 「この丸い部分がーー別大陸では麦に代わる主食とされている、馬鈴薯(ポテト)です」 「馬鈴薯(ポテト)……」  無骨な茶色い塊を見て、お父さまは小さく呟いた。  そう。  この芋こそ、これからやってくる飢饉を変えるほどの力を持つものだった。
/224ページ

最初のコメントを投稿しよう!