第三十四話 男爵領

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 青年は小さな違和感を覚えた。 「あの中年男、農具の他になんか棒みたいなもんも体に結えてんのか……?」  ここまでは巧妙に衣服に隠されて目立たなかった、中年男の衣服の下の膨らみが目についた。 「なんだあれ。銃みたいな…いや、ちげぇよな。農夫がそんなもん持ってねえよ」 「おい」  そんな青年の思考は、顔馴染みに声をかけられて中断された。  このときの彼の気づきが、男爵領だけでない多くの地に影響をあたえるものだったとは、知りもせずにーー。 「そろそろ打って出るらしいぞ!」 「つ、ついにか」  青年は武者震いした。いくぶんかは怯えの方が多かった。 「行くぞ!」  中年男の大きな掛け声とともに、農夫たちは城へ向かって一歩を踏み出した。  するとーー 「俺たちは正しい!」 「正しい!」  震える体に、大声が響いた。 「飢えているのは領主のせいだ!」 「そうだ、そうだ!」  声に押し出されるように、青年たちは城へ近づいていく。
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