第三十五話 銀の女神

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第三十五話 銀の女神

 わたしは馬車の上に立ち、ドレスの裾をはためかせていた。 「皆さん!」  威厳を損なわないよう、けれどできる限り響き渡るよう、声を張り上げる。  移動してくる間、ずっと握りしめていた布ーー公爵家と王家の紋章が入った大きな旗を、護衛に掲げさせたその隣で。 「男爵領の皆さん。わたしは公爵令嬢アイリーン。皆さんに救いの手を差し伸べ、誤りをしかるべく正すためにやってきました」  馬車の後ろには、国境近くを警備していた者たちがずらりと並んでいる。  民からはまるでいきなり多くの兵士が現れたように見えるだろう。  後ろに従えてきた、連れられるだけの公爵家の者たちは、みな揃いのローブを着て同じ旗を手にしている。  それらは、王国の誰もが見知った紋章がーー王国の紋章が織り込まれた旗だ。  太陽王と呼ばれる我らの国王が、勝利の印として各地に立てた旗。  これは王家の権威の象徴でもある。  男爵家や領主を憎む民衆にとっても、さらにその上の王家が突然関与してるとは想像もしない存在だったはず。
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