第三十五話 銀の女神

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 それがこうして目の前に翻されたら、少なくとも虚を突かれて、いきり立って暴動を起こそうとしていた心に空白ができる。  それが狙いだった。  わたしの言葉に少しでも耳を傾けてもらうために。  けれど実は、引き連れているのは武力自慢の兵士たちばかりではない。  実は健康である程度の背丈があり、馬車についてこられる者はコックだろうと執事だろうと、果ては体力自慢の洗濯係の女たちさえ動員しているのだ。  もちろん、彼らには荷物を持たせず、後方にただついてくるだけでいいと言ってあるし、普段の賃金に割り増した手当を払うと伝えてあるけれど……!  ここまでしたのは、この緊急事態に、とにかくこちらの手勢を多く見せかけて暴動の機運をくじく必要があったから。  いまーー民衆にとっては、救いの手があればすがりつきたくなる状況であるのは違いない。  けれど、それだけではない。  暴動が起こるのは、いくつかの条件が重なったときだ。  後先を考えられず、「暴力に訴えても処罰されない」と彼らがいきりたったときにその行動を加速させる。  つまり、集団になれば相手より自分たちが勝てそうだとーー単純に言えば、人数の多さで調子に乗らせてはいけないのだ。
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