第三十五話 銀の女神

5/6
135人が本棚に入れています
本棚に追加
/227ページ
 そうこうして、わたしが時間を稼いでいる間に、王都からのエドワードたちの馬車が小さく見えてきた。  もうすでに、虚をつかれた領主の兵たちも持ち直しているし、そこに公爵家の護衛とエドワードたちの人数を合わせれば、もし今から暴動が起こっても鎮圧できそうだった。  何より、軍事において敵を囲いこむことは、勝利を意味する。  囲まれてしまえば逃げ場はなく、四方八方からの攻撃に抵抗もできない。人は正面以外からの不意打ちに弱いのだ。  賢い人々は、すでにもうそれをさとって戦意を手放していた。  いま、すでに農具を手に城の前に集まった人々は、私たちに囲まれているのだから。  わたしはほっと胸を撫で下ろす。  エドワードのことも、暴動で血を流すはずだった兵士たちも民衆も、守ることができた。  ……いいえ、ある意味では、本当に守るべきはこれからよね。  民衆に最低限の食糧を行き渡らせ、今後の男爵領の統治体制を立て直す。  一朝一夕には行かないけれど、わたしはしっかりとした希望を感じている。 「アイリーン」  呼びかけられて、わたしは振り向く。  本当は少し慌てているだろう、けれど民主の前で威厳を失わないよう振る舞うエドワードの声。 「エドワード」  言外に大丈夫だと伝える。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!