第三十六話 舞踏会

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 人は、隠されたり限定されたものほど気になってしまう生き物だ。  だから、興味を惹きたかったわたしはエドワードの力を借りて、この場でひそかな広報活動をしている。 ーー『いいな! ぼくにも! ぼくにもちょうだい!』  わたしはふっと過ぎし日を思い出す。  この作戦は、夏の庭でウィリアムが花を欲しがったことから思いついた。  人のものがよく見えるのは自然なこと。  それが自分のもっていない、特別そうなものならなおのことーー。  ちなみに、この紫の花は、もちろん馬鈴薯(ポテト)の花。  「秘密」というのは、馬鈴薯(ポテト)の根が冷害にも強い食べ物になること。  けれど、これを普通に知らせて各地に植えるよう指示しても、なかなか広がりにくいのは知っていた。  だから「羨ましくて、自分も欲しい」と各地の有力者に自ら(、、)思わせるよう仕向けたのだ。  あとは、それなりの値段で種芋や苗を流通させればいい。
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