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「君は不思議だな、このくらい望むならまた見せてあげるよ」
「本当? 嬉しい」
彼こそ不思議と、悪い子とは思えなかった。庭先から急に窓辺まで侵入して来た相手なのに。
今も、バルコニーから中には許可なく立ち入らない礼儀正しさも、どこか品がよい立ち姿も印象的だった。
「ところで、あなたは誰? わたしはアイリーン」
「僕は……」
彼は困ったように眉を下げた。
「秘密なの?」
「…………」
どうやら事情があるようだった。
わたしはこの小さな訪問者を問い詰めるのはやめて、許してあげることにした。
このまま黙って見つめ合っているよりは、彼の話を聞いてみたいと、好奇心が刺激されていた。
「仕方ないわね――」
わたしが「名乗らなくてもいいわ」と言おうとしたときだった。
彼は沈黙を破った。
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