第六話前編「選択」

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─────── ウェルド「……ああ……フィリア……どうか無事でいておくれ……私はお前が居ないと生きられん……フィリアに万が一の事があったらどうすればいい………どうしてあの時フィリアの側を離れたんだ……どうして……」 崩れ落ちるように椅子へと沈みこみ、ウェルドは、顔を覆って咽び泣く。 それは安否の分からない最愛の愛娘を思い、心痛し悲嘆に暮れる労しい父親の姿そのものだった。 中村「……申し訳ありません……社長……私が付いていながらこんな事に……」 唇を噛む中村に、ウェルドは涙を流したまま言葉をかける。 ウェルド「……君のせいではない……悪いのは私だ……私が、あの子の側にいてやればこんな事にはっ……今頃どんなに心細い思いをしているか……ああ……フィリア………」 中村「……社長……、あの、私─────、」 ウェルド「……中村君、悪いが少しだけ席を外してくれるか……暫く一人になりたいんだ……」 涙声でそう言って再び顔を覆ったウェルド。 中村は言いかけた言葉を飲み込み、分かりました……と返事を返した。 中村「……何かありましたらすぐにお呼びください……では、一旦失礼致します」 中村が一礼し、部屋を退室する。 ウェルド「……フィリア……どうしてお前が………ああ……どうか無事に帰ってきておくれ……フィリアや……」 ドアが閉まり、室内には啜り泣きと嗚咽する声だけが響いていた。 ウェルド「フィリア……う……うぅ……く……ぐ……く、く……」 ウェルドの肉厚の肩が嗚咽する度に小刻みに震え、やがてそれは上下に大きく揺れ出した。 こみ上げてくる笑いをどうしても抑えられず、にやにやと唇をほぐしながら、ついには腹をゆすって大笑いする。 ウェルド「っ……ふ……ぐ、くくく………くく……っ……!あーっはっはっはぁっ!!ヒーッ!ヒィ!アーッハハハハハァ!!」
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