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第一話「紅い記憶」
……燃え盛る炎が、廊下の絨毯や壁紙を飲み込みながら迫ってくる。
凄まじい唸りを立てて家全体が燃えていた。
立ち込めた黒煙がまとわりついて、痛みを伴った熱気が蜂のように襲い掛かってくる。
義経「父さっ……母さ、んッ………し、ずるっ……」
……少年は、撃たれた腹の傷を庇うことも忘れ、流れ出る血と痛みに意識を失いそうになりながらも、自分を庇って数度に渡る銃撃を受け、事切れている母の身体に触れる。
義経「っ……ぅ……うう……っ………」
海の底を流れる潮のように悲しみが沸き起こる。
しかし、涙を流す暇もなく、ふいに隣の部屋のベビーベッドで寝ていた幼い妹の泣き声が頭脳に針を刺すように響いた。
義経「っ……静流っ……!!」
黒煙と炎を纏った熱風にむせ返る。
義経は地が避けて熱い溶岩が流れ出したような恐ろしい激痛を感じながらも、母の身体の下から這い出て立ち上がり、蹌踉めく足で真っ赤に染まった腹を押さえ隣室へと向かう。
義経「っ……!父さん……」
廊下には父が眉間を撃ち抜かれ、仰向けに倒れていた。
見開かれ、どろりと濁った目には既に生気はなく、永久に唖の如く黙っていた。
………どうして、こんな事に────────、
今日は、自分の誕生日で。
一年で一番の、素敵な日で。
父さんも、母さんも、笑って─────、
……どうか、これが悪い夢なら覚めてほしい。
どうか──────────。
パン、と一発、鋭い銃声が、空気をはね返すように響き渡る。
その瞬間、泣き声は唐突にぷつりと途切れ、妹は永遠に沈黙した。
義経「ぁ………ぁ"、う"……ァあ"あああああ"ああああああ!!!」
黒ずくめの男がゆっくりと振り返り、妹へ向けていた銃口をこちらへ向ける。
義経「殺してやるッッ……!!!必ずッッ……殺して─────────」
重い金属的な衝撃音が二度、業火の中で響いた──────。
─────西暦2☓☓☓年。
───東京某所。
グラスのぶつかる音、シェイクする音、マッチをする音、ライターの音、客たちのおしゃべり、笑い声、そろそろ引上げる女たちの挨拶、ムード・ミュージックのすかした響きなどがまじりあって作るざわめきのなかで、一人の青年が、蝶のように、きらびやかな会場の中を行ったり来たりしてオーダーを取っていた。
青年「お待たせ致しました。こちら、ご注文のカクテル、プリンセスメアリーでございます」
女性客「あら、ありがとう。まぁ……レモンを飾り切りして花を作ったのね……素敵」
カクテルグラスに刺された花に、髪を夜会巻きにし、白いレースのドレスを纏った女性客はうっとりと目を細めた。
青年「貴女と、今宵の夜に祝福がありますように……」
そう言って優雅に一礼し、黒髪の青年は女性客に微笑む。
男性「なかなか粋な計らいじゃないか。君、名前は?」
青年「はい、早川と申します」
女性の隣に座っていたいかにも金持ちそうな金髪をオールバックに撫でつけた男性は胸ポケットから数枚の札を出すと、青年の手に握らせた。
男性「なかなか気に入った。取っておきたまえ」
青年は、一瞬、目を見開くも、それなりに慣れているのかすぐに、にっこりと微笑み、金を受け取る。
青年「ありがとうございます」
……やがて、暫くしてパーティーは盛り上がりも最高潮となり、様々な声や響きが遠く近くで交差するざわめきが、一層盛んになる頃、先程の金髪の男性が、招待客達の前に出て一礼し、締めの言葉を述べる。
男性「えー、宴もたけなわではございますが、時間の都合上、この辺でお開きとしたいと思います。 本日は忙しい中お集まりいただき、本当にありがとうございました。 みなさんのおかげで大変素晴らしい会にすることができました」
あちこちで拍手が起こる中、青年は、膝を折り、先程の女性客に話しかけていた。
青年「お客様、大丈夫ですか?」
女性客「ええ……少し酔ってしまったみたい……」
招待客達が帰り支度を始める中、金髪の男性がこちらに戻ってくる。
男性「お待たせ、彩。ん?どうしたんだい?具合が悪いのかい?」
女性客「ええ……ちょっと……ごめんなさい、デイヴィッドさん……」
青年「お酒をお召しになって体調を崩されたようです」
デイヴィッド「それはいけない。すぐに車を手配しよう」
青年「よろしければ、会場に休憩室がありますので、そちらで暫くお休みになられてはいかがですか?すぐに車に乗られて、万が一お身体に障ってはいけませんから……」
青年の提案に、男性……デイヴィッドは青い顔をした女性客の背を擦りながら、そうだな。と頷いた。
デイヴィッド「では暫く休ませて貰うとしよう」
青年「はい。ではご案内致します。後で水などお持ち致しましょうか」
デイヴィッド「ああ、頼むよ」
デイヴィッドと女性客を休憩室に案内し、青年が扉を閉め退室する。
デイヴィッド「……ふう……全く……無能力者の相手は疲れる……金と権力にたかる蛆虫どもが……」
デイヴィッドはそう呟き、吐き捨てると、タキシードを脱ぎ捨て、ネクタイを外した。
デイヴィッド「……まぁ、馬鹿な蛆虫どもが最底辺でのたうっているお陰で、私はこうして金も権力も手に入れ、美味いご馳走にもありつけるのだからな………」
そう言ってにやりと嗤い、ベッドで眠る女性の首筋に手を這わせる。
その瞬間、フッと、天井の照明が落ち、辺りは突如、闇に包まれた。
デイヴィッド「な、なんだッ……!?停電────!?」
刹那、後頭部にごり、と冷たい鉄の感触が押し付けられる。
青年「連続殺人鬼デイヴィッド・ナーサリー。能力「死体愛好蟲(ネクロキリコ)お前を始末する。夢の続きは地獄で見るんだな」
デイヴィッド「ッ……クソッ……始末屋かッ……!こんな所でッ……!!」
メキメキと音を立てて、デイヴィッドの腕が筋肉質に異形化していく。
デイヴィッド「終わってたまるかよぉおお!!」
鋭い爪が、青年の喉笛を掻き切らんと、空気を裂いて後ろへ薙いだ。
青年「!」
青年は、瞬時に後ろへ引いて飛び、一撃を躱す。
その一瞬、デイヴィッドの顔に、びしゃり!と、何か液体がかけられた。
デイヴィッド「クソッ……冷てぇ!!なんだこれッ……暗くてよく見えねえ!!」
青年「安心しな。そりゃ"ただの水"だ」
デイヴィッド「何ッ……!」
間髪入れずに、デイヴィッドを狙い、弾丸が雨のごとく飛来する。
デイヴィッド「馬鹿め!そんなもの俺には効かんわ!」
弾丸は、デイヴィッドの異形の腕に弾かれ、跳ね返って青年の側の壁に数発がめり込んだ。
青年「ッ……!!あぶねっ……!!」
青年は、咄嗟にソファの後ろに身を隠した。
青年「チッ……、なんだあの腕……鉄かっつうの……」
ハンドガンの弾倉を落とす。
押しつけられるような重たい音の落下。
ガシャリ、と低く厚みのある音を立てて再び弾倉を装填する。
デイヴィッド「どうした!来ないのならばこちらから行くぞ!」
バギリ、メキメキ……と木立を根元から折るような音を立て、
男の腹が真横に裂けた。
そうして、裂けた腹の中から蠢き、のたくるようにして灰色の統絹ぬめぎぬのような毛が一面に生えた、妙に小さな頭をした子供程の大きさの芋虫が次々と這い出して来る。
青年「げっ!気持ち悪りぃなオイ……!!」
デイヴィッド「こいつらは人肉が大好物でなぁ!早川とか言ったか、どうせ偽名だろうが、お前の肉は程よく引き締まっていて美味そうだ……!」
青年「そりゃどうも!!全然嬉しくないけどな!!」
金属を擦り合わせたような独特の鳴き声を出し、カサカサと前脚を動かしながらベッドの上の女性に這い寄る芋虫達が、瞬時に撃ち抜かれる。
サイレンサー付きの銃から、低く重い銃声が響き、弾丸は金属音を伴って乱れ飛ぶ。
押し寄せる芋虫を撃ち抜きながら、女性を狙う虫達を正確に射撃する。
デイヴィッド「ほう、大した腕前だ。だがお前、無能力者(ノーマン)だな?」
青年「……てめぇに教える義理はねぇよ!」
青年が足元まで迫る芋虫を蹴り上げ、撃ち捨てる。
デイヴィッド「隠さずとも分かるさ……!銃などという旧式の武器に頼りきった単調な攻撃!自分の身も顧みず他者を守ろうなどという浅はかな行為!お前たち無能力者は実に愚かだ!!」
青年の足に床を埋め尽くし、蠢く芋虫が取り付く。
青年「っ……!」
デイヴィッド「弱者は弱者らしく無様に地面を這いずり、恐怖と力に捻じ伏せられながら死ね!泥を啜り、無能力者に生まれてきた事を悔いるがいい!!」
青年「………」
俯いたまま、銃を下ろし、立ち尽くす青年に、男の顔が愉悦と、嗜虐に染まる。
デイヴィッド「恐怖で声も出んか。……いいだろう。その恐怖から今解放して─────」
青年「……一つ教えてやる。確かに俺は無能力者だが、窮鼠猫を噛むって言葉もあるんだぜ?」
デイヴィッド「何……?ッ……これはッ……!?」
芋虫達は毒々しい色の腹を見せ、泡を吹いて次々に痙攣を起こし、悶え苦しみ、中には死ぬものも現れている。
それはデイヴィッドの異形の腕も例外ではなく、虫達が死ぬと同時に萎み、まるで木乃伊のようになった。
デイヴィッド「何だっ……!?何がッ……貴様ッ……一体何をしたッ……!!」
混乱の最中にいるデイヴィッドの後頭部に再び冷たい銃口がぴたりと当てられる。
青年「何、簡単なことさ。最初にお前にかけた水、ありゃ強力な殺虫成分入りの花のエキスだ。人間には無害だがな」
デイヴィッド「ッ……待てッ……早川ッ……!金ならいくらでもやるっ……!!あの女もくれてやるっ……!もう人は食わねぇと誓うッ……だからッ……!!」
青年「……一つ尋ねる。俺は義経、獅童義経だ。この苗字に聞き覚えはないか」
デイヴィッド「ッ……獅童……そういや、何年か前に猟奇殺人事件のニュースでそんな名前が………」
義経「……犯人に心当たりは。何でもいい、知っていることがあれば喋れ」
撃鉄を起こす音に、デイヴィッドが上擦った悲鳴を上げる。
デイヴィッド「ッ……知らないッ……!!俺は何も知らねぇ!!本当だ!!信じてくれッ……!!」
おびえた、犬のような悲鳴に似た哀れな声はいくじなくも泣かんばかりに震えていた。
義経(……チッ……こいつも"ハズレ"か……)
デイヴィッド「なぁ!言う通りに喋っただろ!?頼む!!見逃してくれ……ッ!!」
義経「………。………お前は人を殺し過ぎた。お前が食った人たちもそうやって恐怖に声を引き攣らせて必死に命乞いをしただろう」
デイヴィッドの頭上から、数枚の札がひらひらと落ちてくる。
義経「……それと、これ、返しとくぜ。三途の川の渡し賃にでもするんだな」
デイヴィッド「待てッッ……やめ──────」
……その言葉と同時にハンドガンの引き金を引いた。反動が来る。サイレンサーを施した銃声が低く響く。夜中の銃声は、重く鳴った。
──────西暦2☓☓☓年。
人類はある日突如として地球上に現れた「能力者」の出現により、3つの人種に分けられることとなる。
一つ目は生まれながらの能力者である先天的能力者(ギフテッド)、先天的能力者は自然を自在に操り、精霊を意のままに従えるなど、最も強い力を有し、また希少である。必然的に地位の高い職につくものが多く、社会的にも優遇される。
2つ目はなんらかの理由で後天的な能力を得たもの、後天的能力者(レイター)であり、能力の質はギフテッドに劣るものの、近年その数を伸ばしつつある。
最後は能力を持たない者、無能力者(ノーマン)。人に非ずと言う意味を持つ語源から、能力者と比べ、差別され、今や能力が社会的主流となった新世界では文字通り、無能と揶揄される。
……しかし、いつの時代も犯罪は絶えない。
特に能力者の起こす事件は、証拠が掴みにくく、凶悪で、大概の被害者は泣き寝入りを強いられる。
最早「警察組織」自体が旧時代の遺物のような物だった。
『ちょっと義経!さっきから人の話聞いてるの!?』
義経「あー、聞いてる聞いてる……」
スムーズフォンから聞こえるオネェ口調の男の怒鳴り声に、義経はうんざりとした眠そうな表情で寝癖のついた頭を掻いた。
『とにかく、前回の報酬はきっちり頂きますからね!今日の16時までに300万振り込んでおいて頂戴!』
義経「分かった分かった……用がそれだけなら切るぜ」
そう言って義経は、前回の仕事で殺虫成分の入った花のエキス水を用意してくれた仲間との通話を切ろうとする。
『それはそうと義経?』
「……んだよ……まだ何かあんのか」
『あんた、そろそろ新しいパートナーを迎える気はないの?』
「ねぇな。仕事なら俺一人で十分だ」
間髪入れずにそう答えれば、電話口からは深い溜息が聞こえた。
『……あの子がいなくなってもう七年よ?……今回の事を逆手に取るつもりはないけど、もう、いいんじゃないの?』
義経「……唯でさえ今日はオフなんだ。その話を今更する気はねぇ。……切るぜ」
『義経!ちょっと義─────、』
通話終了ボタンを押し、スムーズフォンを布団の上に投げ出す。
下着姿のまま布団から出ると、適当にシャツを着て、スラックスを履く。
顔を洗い、適当に朝食を食べ、身支度を整えてから、ゴミ袋を持ち、「店」の裏手へ向かって歩く。
……あの日、11年前、瀕死の俺を助けたのは父親の知己であり、Bar「La Mer」のマスターだという男だった。
十也「初めまして。義経。俺は神城十也。君のお父さん……海斗さんは俺の古い知り合いでね。君の事はよく知っているよ。大きくなったね……」
義経「……神城、十也……確か父さんがよく話してくれてた……大切な、弟だって……父さん……母さん……静流は………」
十也「……残念だけど、助けられたのは君だけだ……」
義経「ッ………」
十也「……俺が、もっと早く気付いていれば……ごめんよ……」
分かっていた………それでももしかしたらという希望が、小さく残っていたのだ。
完膚なきまでに崩れさった希望に次いで俺の心を埋め尽くしたのは、悲しみよりも、何もできなかった自分に対する怒りだった。
家族を殺した犯人は勿論憎い。激しい憎しみで全身が焼け付きそうだった。
でもそれと同じくらい、大切なものを守れなかった自分を憎悪した。
掛け布団を手が真っ白になるくらい握り締める。
十也「……だけど、いくら後悔をしても時を戻す事は出来ない。だから義経。君に問おう」
───君は、それでも、まだ生きていたいと望むかい……?それとも─────
義経「………」
忘れはしない。
あの日、炎の中で誓った心も。
応えた言葉も──────、
だから俺は今、ここにいる。
……ゴミ袋をゴミ捨て場へ置こうとした時だった。
山積みになったゴミ袋の奥で、何かが動く気配がした。
俺は咄嗟に銃を構えようと腰に手をやるが、肝心のそれは、部屋に置いてきてしまっていた。
失態に舌打ちを一つすると、音を立てないようにして、そうっとゴミ山の後ろを覗く。
義経「……!」
……予想外の光景に、目を見開く。
ゴミ袋に埋まるようにして、人が、倒れていた。
……透けるような白い肌に癖の強い鴇色の長い髪。
(女……!?いや、今はそれよりも………!)
義経「っ……おい!大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り、抱き起こす。
呼びかけるが、反応はない。
義経はすぐに呼吸を確認する。
……よかった。浅いが息はしているようだとホッとしたのも束の間、よく見れば、白い一枚布の簡素な服にはあちこち血が染みていた。
そして、細い手足には似つかわしくない重厚な、鉄で出来た鎖付きの枷………。
義経「……一体、何が─────、」
──────
─────水月。
────水月
────こっちへおいで、水月。
さぁ、今日も仕事だよ。
……お前は良い子だ。
これはお前の為なんだよ。
私の言う事を聞いて良い子にしておいで……
……男の雄芯が肉壁を猛々しく擦り上げ、その刺激を追うように少年の背中がしなやかに反り返る。
「っく、あぁっ!あ……ン、あ……っ」
喉に込み上がる嬌声。
ドクドクと爆ぜる鼓動の荒さ。
挑発的に揺れ動く少年の背中に、男は口づけを散らす。
男の唇が、ちゅぱ…ぬちゅ…ちゅぱ…と少年に絡みつく。
「ん……っ、ん……ぁっ……ぃ、やっ……嫌だっ……」
少年は口端から唾液の筋を零しながら頭部を後ろに捻り、涙に濡れた目で男を見遣る。
じゅぷっ、ぬちゃっ、ずちゅっ、ぬぷんっ
「あっ!……やめ……、も、いやだっ……んんッ!」
「ハァ、その目、そそるな……尻を突き出すのは屈辱か…?」
「……ぁ、ん……、ンっ……ぁくっ」
男の手が、はち切れんばかりに膨らんだ少年の砲身を握り込む。
雄芯と尻穴を同時に蹂躙され、押し迫る快感に必死に身悶える。
「はぁ、んあぁッ、うっ……!」
「ん……はぁ、は……ッ」
内壁が男の男根に淫らに吸いついて淫猥な刺激を与え、少年の美艶な面貌を歪ませる。
腰の律動が更に荒々しさを増し、昇り詰めるための性急さを帯びていく。
体内にぶつけられる激情は逃れたくなるほどの興奮を誘い、思わず逃れようと床に這いつくばり、腕を伸ばし身を捻った少年だったが。
「あ、ぅう……っ」
もがく肢体は力ずくで座面に押さえつけられ、容赦なく穿たれた。
ぢゅぷぢゅぷぢゅぷぢゅぷっ!
「ああぁっ!も、やめっ……、んくぁッ、はぁ……っ!」
「く……ッ!」
砲身が内壁の奥深くをグッと突き上げ、
「……ぁ……っ!!」
少年の背中が大きくのけ反ると同時に、男の手に揉みくちゃにされた雄芯がびくぅっ!と跳ね、欲望の飛沫を迸らせた。
「ああ……っ、ん、んうぅ……!!」
「は――、ン……ッ!」
後を追うように男の肉棒が脈打って震え、少年の体内に熱い精を叩きつけた。
「……っぁ、ァンッ……!」
甘い快感が、脳天まで貫く。
屈辱だった。全てが…ことごとく蕩けそうだった。
男が体液を注ぎ込みながら少年の華奢な裸身に被さり、うなじに強く口づける。
前に這わせた指がなだらかな臍を捕え、白磁の肌をなぞった。
「はぁ、ぁ……っ!」
情火に焼かれた躯が、再び疼き出す。
尻をまた無意識に揺らしてしまう。
か細い声を喉奥で鳴らした少年は、己に肉棒を突き立てている男と自分の行く末を絶望の中で夢想し、潤む菫色の目を閉じた───────
……嫌……
………嫌だ………
誰か………助けて………
………タスケテ………──────。
─────おい………
………しっかりしろ………
……大丈夫か──────
……ゆっくりと、目蓋を開ける。
視界に飛び込んできたのはこちらを覗き込む見知らぬ青年の、顔。
「ッ……!!」
義経「よかった。お前大分魘されてたから、心配……ってうわっ!?」
いきなり掛け布団を跳ね上げ、飛び起きた"彼"に、ベッドの横に座っていた義経は後ろに転けそうになる。
「はぁっ、はぁっ!はーっ……」
少年は、ベッドの上で寝間着姿のまま膝をつき、こちらを威嚇するように睨みつけている。
義経「っ……おい、落ち着け!身体に障るだろう!?」
少年「ッ……お前もどうせあいつに言われて来たんだろうッ……生憎だったな、俺はもう"檻"には帰らないッ……!!」
(あいつ……?檻……?なんの事だ……?)
義経「ちょっと待て!一体何の話だ!?まず俺の話を─────」
少年「うるさいッ……!!」
少年がそう叫んだ瞬間、部屋の照明がバチバチと爆ぜるような音を立てて明滅し始め、部屋中のコードやケーブルが意思を持って踊るように少年の周りをうねりながら、取り巻き始める。それはまるで鎌首を擡げた蛇のようだった。
義経「……!」
(こいつ……!能力者か……!!)
不意に、ケーブルの一本が、義経目掛けて、蛇が獲物に襲いかかるが如く、火花を散らしながら
真っ直ぐに伸びてくる。
義経「ッ……!」
攻撃を避けた義経の背後の壁に、ケーブルが突き刺さり、パラパラと壁の破片が落ちる。
それが引き抜かれると、今度は数本がそれぞれ意思を持つように、ばらばらな動きで襲い掛かってきた。
狭い部屋の中でそれらを避け、躱しながら、義経は少年に呼びかけ続ける。
義経「ッ……!落ち着け!俺はお前の敵じゃねぇ!話を聞け……!」
少年「黙れッ……!っ……ぅ……」
少年が小さく声を上げ、頽れるのと同時、敵意を持って義経を攻撃していたコードやケーブル達がはっ、としたように動きを止め、少年の周りに集まり出す。
少年の様子を伺うように、コード類が彼を取り巻く様、それはまるで、母親が我が子を労っているようにも見えた。
義経「……そら、言わんこっちゃねぇ……」
少年「っ……」
義経「お前あちこち怪我してんだから、ちったぁ大人しく─────、!」
義経の目に、少年の頭上の棚から落下する本が見えた。
義経「危ねぇ!!」
少年「!!」
……ドサドサと重い音を立てて落下する厚い本。
……暫くして、少年はぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開ける。
義経「っ……大丈夫か……?」
少年は義経に頭を庇うように引き寄せられ、抱き締められていた。
驚いて思わず攻撃してしまったのか、義経の背中には二本のケーブルが火花を散らしながら刺さっていた。
義経「怪我、してねぇか?」
そう言って自分を安心させるように笑う義経を、彼は目を見開いたまま、見つめていた。
その時、ノックの音と共に部屋の扉が開き、薬と包帯を持った銀髪の男が入室してくる。
十也「義経?さっき部屋から大きな音がっ……って何これ!?何があったわけ!?」
部屋の惨状を見て、俺の部屋がー!と絶望的な叫び声を上げる男に、びくり、と肩を竦ませる少年。
義経「大丈夫だ。うるさいがこいつも敵じゃない。俺は義経。獅童義経だ。こっちのやかましいのが神城十也。俺が借りてる部屋の大家みたいなもんだ」
十也「ちょっと!!さっきからうるさいとかやかましいとか全部聞こえてるよ!あーあーあー、機械類全部駄目になってるぅ〜!!どうすんのさ、これ!!」
喚き立てる十也を無視し、義経は落ち着いたトーンでベッドの上に座り込んだ少年に語りかける。
義経「お前の、名前は?」
水月「…………水月………」
義経「水月か。いい名前だ。歳は?どっから来たんだ?」
水月「歳は……多分17………」
それきり沈黙し、俯く水月に、義経は少し微笑ってそうか、と言った。
義経「……今はゆっくり休んで身体を治せ。後は言いたくなったら教えてくれればいい」
水月「………」
義経「そうと決まれば飯だ飯!水月、腹減っただろ。今から俺がめちゃくちゃ美味い飯作ってやるからな!十也、キッチン借りるぜ」
義経は水月の頭をぽんと優しくひと撫ですると、座っていたベッドから立ち上がる。
水月「っ……、」
水月の掌が、義経の服の裾を掴みかけて、ぐっ、と堪えるように握られた。
十也「………」
男は、表情を変えず、ただ目の縁から頬へかけて変に冷たい落ち着きが広がり、停止した機械のように無表情な顔でそれを見ていた。
………廻る、廻る。
運命の輪が、逆しまにくるくると廻る。
未だ何も知らぬ児らに、捻じれし因果が蔓延りて
嘆きと痛みの連鎖は続いていく。
彼らの邂逅は偶然か、必然か、それとも───────、
To Be Continued…………
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