春、うららかに

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 いくら同じ種類の木とはいえ、枝ぶりが全く同じになるはずがない。樹皮の独特な模様もまるで写しとったかのように同じものだ。  よく見るとそのほかの木も、種類がよくわからない見た目をしていたり、もはや子供が針金と粘土でつくったかのように不自然な形をしていたり。 ――この場で何が起こっているのか、俺は全てを悟った。 「誰だ?」  俺が言うと、数本の木が大きく揺れた。  さらに網膜に結んだ像が揺らぎ始める。生物の気配に上手く紛れ込んでいた魔力が察知可能なところまで浮かんでくるのを感じる。  木が、一本、二本と人間の姿に次々変わっていった。 「わあ、いっぱいいたんだね……」  珠希さんがそう言って口をあんぐりと開けた。  隠れていてもせいぜい二、三人だろうと思っていたのに、その四倍の人数はいた。正体は雪寮所属の同級生で、全員が判でついたように気まずそうに笑っていた。そして。 「上崎先輩……」 「あはは、これは不可抗力ってやつだよ」  そう言ったのは、魔術師の資格を取ったのち、さらに学びを深めるために東都高魔の専科に通う上崎未来先輩。三歳上なので、この春からは七年生だ。学生会からは退いたが相変わらず雪寮で暮らしていて、まるで寮母さんのようにみんなから頼りにされている。 「四年生に『擬態』のコツを教えてたら香坂くんたちが来てさ、なんかいいすっごく雰囲気だしさ、出るに出られなくなっちゃった」  先輩がバツが悪そうに頭を掻くと、同級生たちも揃って頷く。 「はあ」 「いつもは夕方だから、昼間なら大丈夫かと思ったんだけど……あっ、えっと」  そこまで言って口をつぐんだ先輩は、あからさまに目を逸らした。 「先輩……」 「ああっ、大丈夫、見てただけで聞いてないよ!! さすがに盗み聞きする度胸は持ち合わせてないからね」 「俺たちがここで会ってたの、知ってたんですね……」 「あはは、たびたび活力を補給させていただいてました」  さすが学校の情報通。いつからかは知らないが、何もかも見られていたらしい。  隣を見ると、珠希さんの顔も日に焼けたように真っ赤で、今にも倒れてしまいそうだ。  ぽちゃんと池の水が跳ねる。  カエルが二匹、こちらをじっと見ているのに気づく。小鳥の歌も、意味をもって聞こえてくる。
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