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「そんなに荷物があったわけじゃないから、あっという間だったな」
春といえば新生活、新生活といえば引っ越しだ。珠希さんは寮の中で部屋を移動し、俺も春休みの始まりとともに入学式の日から三年間住んでいた部屋を引き払い、『男子寮』の隣の棟にある一室に引っ越している。
入学当初から決められていた通り、四年生からはいわゆる職員用の独身寮の一室でひとりで暮らすことになった。学生寮で暮らす寮生は四年生になると相部屋から個室に移るので、それに合わせてのことだ。
荷物は本が教科書も含めて段ボール箱よっつ分。衣類は手持ちのリュックやトランクに詰めたらちょうどおさまった。あとはごちゃごちゃとした私物があったが、それも段ボール箱ふたつ分。それを自分の手でせっせと運び、引っ越しはあっという間に終わった。
「すごいね。私のところはまだごちゃごちゃしてる。部屋にひとりなら、新学期のことが落ち着いてからゆっくりでいいかなとか」
四年生の新学期は、今までの比ではないくらい忙しい。明日からは学内での実習と並行して、実地実習先を決めるための説明会や選考会を受けまくらないといけない。
俺にはある目標があるので、手当がもらえる実習先を目指しているが、先輩曰く、数が限られているために競争率が半端ないらしい。
在学中のアルバイトは原則禁止されているため、魔術学生は自由にできる収入を得られる機会がなかなかない。やはり皆考えることは同じなようだ。
いや、待て。その前に懸念すべきは魔術師免許の予備試験か。これに受からなければ実地実習に行けない。実地実習に行けなければ、五年に上がれない……夢が遠のいていく……。
「環くん、どうしたの? 難しい顔して」
「ああ、ごめん。引っ越しの話だよな。俺みたいに身軽ならまだしも、女の子は荷物多そうだもんな。服とか、化粧品とか、小物とか? わからないけど」
「えへへ、私は単にお片付けが下手なだけ。そうだ、ひとり暮らしは慣れそう? 先生と離れて寂しくない?」
「そうだなあ……」
俺は腕を組んで考える。ひとり暮らしといっても、俺が引っ越したのは紺野先生が元々住んでいた部屋の隣だ。 紺野先生も元々の住処に戻ったので、俺たちは同居人から隣人になった。
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