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一年の冬休みから長期休みは珠希さんと、俺の実家で一緒に過ごすのが恒例になっていた。この春休みもそうで、二週間の休みのうち一週間を同じ屋根の下で一緒に過ごしていたわけだが。
自分の部屋でふたりきり……いや、これ以上はいけない。絶対に忘れたくないが、今は忘れておかなければならない。何があったかは察してほしい。
「どうしたの?」
何をしたのかをはっきりと思い出してしまって、身体は焼けたように熱くなった。咳払いをふたつしてから、俺は絡められた指をそっと解いていく。
「その、あれはそれとして、まあ。新学期が始まったからにはちゃんと切り替えていかないと。俺たちの本分は勉強なんだから!!」
なんだか無駄に声が大きくなってしまった。
「……そうだね。頑張ろうね」
珠希さんがくすくすと笑いながら、俺の肩にもたれかかってくる。心地のいい重さと、甘い匂いがくすぐったかった。体温がじんわりと伝わってくると、どうしても胸の奥がうずいてしまう。
ふと、耳元で悪魔がそっと囁いた。今はふたりきりだし、少しくらいいいんじゃないかと。
抱きしめようと思った。まるで花の蜜に誘われるように彼女の肩をこちらに寄せると、再びガサガサと木々が揺れる音がした。
今度はさっきよりもはるかに大きい音だった。小鳥が枝を渡ったというより、人間が枝に手をかけて激しく揺らした時の音というか。
「えっ?」
「何の音だ?」
珠希さんもまた目を丸くしたので、背中に添えた手を下ろした。やっぱりなんだか様子がおかしい。
さっきから風もないのにたびたび枝が揺れている。今度はゆっくりと振り返ったが……別に何もおらず、背後にはしんと静かな茂みが広がっていた。いつもと変わらない光景だったが、じっと目を凝らす。やはりおかしなところはないと思われた。
いや、待てよ。
首筋をなぜたのは小さな違和感だった。
「木……」
「えっ?」
「こんなに生えてなかったよな」
「え……?」
ここにはたびたび来ているからこその気づき。ベンチの後ろに生えている木の数が明らかに多い。
さらによく見ると、一番手前に並んだ木の様子がおかしいことに気づく。
ベンチの裏側に回り、木に直接触れて確かめようとしたがやめ、二本をじっくり見比べながら視線を上げていく。かすかだった違和感が徐々に実体を持ってきた。
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