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シャンプーになりたい
俺、という人間がいる。
亜子(あこ)、という人間がいる。
二人は仲が良いが、恋人ではない。
しかし、俺は亜子が大好きだ。
どれくらい大好きかと言うと、毎晩亜子を想い、とても人に言えないふしだらな情熱を燃やす程だ。亜子が使っているシャンプーの香りで鼻血を出せる自信はもちろんある。
いいなぁ。毎晩亜子の愛らしい手でこねくり回されて揉まれるシャンプー……
あぁ、俺は亜子のシャンプーになりたい。
そんなことを考え朝からティッシュを無駄遣いしていると、ブルブルといやらしくスマートフォンが震えた。
いや、いやらしいのは俺だ。
電話の主は、小学校からの腐れ縁で、俺より破廉恥な男、俊彦だった。いつもの時間に迎えに来ないから、つい朝からエネルギー使ってしまったじゃないか。心の中で文句を言い、綺麗な方の手でスマホをスピーカーにする。
「おー、もうすぐ着くぞ」
「おっす」
やっとか。ズボンを履いて軽くコロンを付け、家の前で俊彦を待つ。しばらくすると、曲がり角から無駄に背の高い男がフラフラ歩いてきた。
「もー! 遅い!」
……何故お前が言う?
と、言おうとしたが、俊彦は続けて、
「お前なぁ、お前の発電で電飾が光るんじゃねーの? 朝からやめろよ」
……なんでバレたんだ?? 慌てて両手を隠す俺を見て、
「図星だな、兄弟」
俊彦が親指を立てる。
そういうことか!
「そんなことはどうでもいいだろ! ところで亜子は?」
「先行った」
ああ……
ああ……
今日という日は今終わった。グッバイ今日。
しかし、帰ろうとする俺を俊彦が引き留め、
「隣のクラスなんだから学校行けば会えるだろうが!」
と、結局引きずられて学校へ行くことになった。
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