復活節の日

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 『白の法廷』と呼ばれる天井が高く広々とした間に、二人の人間が立っていた。そこは千年ほど前でいえば大聖堂と名付けられそうな、厳かで豪奢な広間だ。その中央ににいる一人は真っ白な美しい衣装を身にまとったアデルと名付けられた15歳ほどに見える美しい少年で、無表情にスラリと立っている。その前に、すでに懺悔を済ませた中年の男が怯えきりながらも辛うじて立っていた。 「そなたに死を授ける」  アデルが厳かに告げると、その前に立つ男はふらりと揺れて音を立てて崩れ落ちた。  控えていた官吏が男の死を確認し、その体を持ち上げ運び去る。誰も何も言葉を発しない。響くのはただ、透き通ったアデルの声だけだ。  この厳粛な法廷は、そのままこの国のあまねく全ての場所で放映され、多くの国民が視聴している。そして祈りを捧げているはずだ。  祈りの意味は人によって様々だろう。  多くの規律に従いながら生きることのできる者たちは、正しき行いがなされたと安らかに祈る。少数の規律に従い生きることの苦手な者たちは、次は自らの順番かもしれないと、その番を逃れるために戦々恐々と祈る。  そしてその軛から限定的に逃れたただ1人の人間、グインは些かうんざりとした複雑な思いでアデルを、つまり自らと全く同じ顔と遺伝情報を持つ者を眺めていた。二人の外見的な唯一の違いといえば、その見分けをつけるためにグインの頭髪が黒く染められていることだけだ。そんなことをしなくても、二人の違いは一目瞭然であるというのに。 「アデル様。本日は以上です」  恭しく頭を下げるこの建物の代表官吏であるヤハの声に、アデルは僅かにうなずき席を立つ。そして僅かにクラリと揺れたその細い腕を、グインは片隅から走り出て思わず支えた。アデルは透徹した瞳でグインを眺め、けれども何も音を発しなかった。 「アデル、ほら。ちゃんと歩けよ。お前がコケて頭をうったら、この世界はそりゃぁもう大変なことになっちゃうぞ。その優秀な頭脳が狂っちまえばな」 「グイン。不敬だ。それにそんなことはあり得ない」  グインはヤハを鼻で笑う。アデルと全く同じ顔で、アデルが決してとらない馬鹿にした表情でヤハを見下ろす。
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