復活節の日

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 そうして迎えた復活節の日。  街は華々しく装われ、着飾った人びとが花や飾りを片手に練り歩く。その日朝の一番で塔の最上階に登った俺はそんな街並みを見下ろしていた。 「グイン。そろそろ時間だ。どうする。最後くらい抵抗するなら無理に捕縛するが」 「しねえよ」 「そうか。……では着替え給え」  俺はヤハに従い、礼装の間で黒の衣装に美しく飾り立てられた。  そして白の法廷で、同じように白の衣装に美しく飾り立てられたアデルと対峙した。  そしてヤハは厳かに宣言する。 「本日は復活節である。この世にあまねく人びとの原罪を神の子が背負い贖い、復活を果たされる日だ」  その瞬間、遠くから大歓声が鳴り響くのが聞こえた。  この白の法廷は中継されている。全ての国民がことの成り行きを見守っているのだろう。 「アデル様。グインの罪を明らかにされてください」  けれどもそのヤハの声にアデルは瞬き1つしなかった。  当然だ。俺は罪といえるほどの罪など犯していないのだから。 「アデル様?」 「グインの罪は既定値に達しない。しかし経典に従い死を」 「アデル。待て。懺悔がまだだ」  アデルの眉がぴくりと動いた。  経典にはこう書かれている。罪の申し子グインは復活説の日に死を賜り、それを償う。そしてその罪も含めてこの1年で生まれた全ての罪を贖い、アデルは眠りにつき、そして翌日復活するのだ。  白の法廷は単純だ。ナノマシンが記録したその者の罪が既定値を越えた時、ナノマシンがその者を捕縛し引き立てる。そして白の法廷でアデルがその補助脳を通じて罪人の罪の総量を計算し、一定の罰を与えるのだ。  けれども『グイン』はその例外にいる。『グイン』は全ての軛から解き放たれ、自由である権利が与えられている。だから『グイン』の罪はナノマシンが記録しながらも、この復活節に至るまで蓄積され、捕縛されない。そして生まれた直後、『グイン』には1年後に絶対死が訪れること、代わりにこの1年内は何をしてもお咎めなしであることが告げられる。  だからこれまで全ての『グイン』は自暴自棄となり、経典に記載される野獣のような、あたかも罪を具現化したような生活を送るのだ。だから『アデル』は『グイン』に死を賜り、そして1年の間で高度の脳の負担に劣化した『アデル』は活動を停止して倒れ、西の教会に安置される。  そうして翌朝、東の教会で劣化のない新しい『アデル』のクローンが目を覚ます。劣化した『アデル』のクローンは人知れず消去される。けれども人格というものを失っている『アデル』は人々から見分けがつかず、永遠を生きるように見える。  俺はこの繰り返しが許せなかった。  俺たちは1年毎に殺される。俺たちが一体何をした。この神の子というシステムこそが、この国の宗教の芯となり人類を未来に向かせているとしても、それは俺たちの生贄の上になりたったシステムだ。そのシステムの恩恵を受けない俺たちには意味がない。
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