復活節の日

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 大通りに入れば街は多くの人間の往来で溢れていた。そして所々、復活節の飾り付けが始まっていた。各店舗にキラキラとした星の飾りやリボンがまとわりついている。そんな中で2人が手を取り合って道を歩く。嫌がおうにも注目を集め、気づいた住人は慄き、ある者は地面にすがって祈り、ある者は小さな悲鳴を上げて路地に逃げ込んだ。  その様子を見てヤハは呟く。 「まったく罪作りなことだな」 「だがこれは罪じゃない。俺もアデルも道を歩いてはいけないなんて定めはない。そうだろ」 「そうだな」  路地を曲がりくねり、少し道を登って最初のポイントに辿り着く。そこは少し開けた丘で、教会が立っている。 「お客様。ここが神の子が死を得る場所、夜の教会です。神の子は夜にここで死に、そして朝に朝の教会で復活します。この小さな旅の終点は復活の場です。もうすぐ復活節。それが訪れるまでに、様々な場所を巡りましょう」  グインはいつもどおり、朗らかに宣言する。 「グインよ。お前はいったいどんなつもりでここを案内しているんだ」 「どんな? ただの案内だよ。客が気づけばチップを弾んでくれる。たまに逃げ出すこともあるけどな。ただの仕事だ。なぁ、アデル。お前は楽しいか?」  アデルはいつも通りぼんやりと正面を見ていた。  ここはこの街の西地区にある古ぼけた小さな教会で、復活節の夜以外は閉じられている。神の子はここで死に、復活節の夜中、その死体が安置されるのだ。そして朝日が登るとともに教会は閉じられる。  この次に行くのは原初の神の子が石を投げる女に会った場所だ。原初の神の子はそこで罪のない者だけが石を投げるよう言い、そして礫が止まった場所だ。それから原初の神の子が最後の食事をし、自らが翌日眠りにつくことを宣言した北の修道院を巡って、最後に東区の復活節の朝にしか開かない小さな教会で旅が終わる。  その道行は順調に過ぎる。  原初の神の子が食事をした修道院に到着するのは昼時で、そこでは小さなパンが饗された。それを渡すシスターはグインたちを見て慄き、そしてヤハを見て困惑し、ヤハの頷きを確認してパンを配った。  けれどもやはり、アデルはパンを食べたりしなかった。けれどもその瞳は小さな白いパンをじっと見つめていることに、グインは気づいた。そのようなグインを見て、ヤハはため息をついた。 「グイン。お前は何故自由に生きぬのだ」 「俺がどうしようと知ったこっちゃないだろ。十分自由さ」 「勿論だ。勿論だがな。それでは教会がお前に真実を教える甲斐がない」 「甲斐とか知ったこっちゃねぇんだよ」 「そうだな。誠にそうだ。私は自らの信仰に最近疑問を持ち始めた。お前のせいでな」 「へぇ?」  ヤハは小さなパンを懐にしまい、アデルの手に持つ小さなパンもそのポケットにしまった。この行程は特区の神の塔を中心に、太陽の動きと反対に西の夜教会から始まって北を通って東の朝の教会で終わる。だからこの北の教会の正午は神の塔に遮られて太陽の光が降り注がない。そして東の教会に向かう時、再び太陽の光を浴びるのだ。あたかも原初の神の子が復活するように。
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