復活節の日

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 その一通りの行程を経て、グインはヤハからいつもより大分多い手間賃を受け取り、アデルの手を引いて再び街の大通りに繰り出した。グインはよくこの通りで買い食いをしているものだから、この通りの人間はグインに慣れている。けれどもアデルと2人でいるとなれば話は別だ。  人々は盛大に固まり、そしてその後ろ、よく放送に写り込んでいる司祭のヤハを見てようやく、わずかに落ち着きを取り戻す。 「やぁグイン、その。えと。今日は一体どうしたんだよ」 「兄ちゃん、いつも通りさ。こいつはアデルだ。知ってるだろ? そいでそっちは保護者のヤハ」 「ああ……その……まぁ。あのさ、グイン、俺は何も悪いことしてないよな?」 「知んねぇし。なぁアデル。お前こん中で食いたいものはあるか」 「ありません」  グインの問いかけへの返答はいつも通りで、アデルは変わらずどこを見るともなくぼんやりと立っているだけだった。グインはアデルの手を引き、大通りの店を片っ端から回る。けれどもやはりアデルの興味を引くものはなかった。  そうしている間にも日は暮れていく。グインはいつもはこれほど長く街にいることはない。さっさと何かを購入して神の塔に急ぎ、アデルを連れて塔の最上階で世界を眺めるのだ。  気づけば辺りは僅かに暗くなりかけていた。  そう思って振り返った神の塔は、暗くなりかけた世界の中で真っ白に輝くように、そして天に届くかのように堂々とそびえ立っていて、思わずグインはのけぞった。 「こっから見るとすげぇでかいな」 「そうだな。私もこの時間に外から見たことはない。それに外に出るのも随分と久しぶりだ」 「ヤハも外にでないのか?」 「ここ1年弱は全くな。それもこれもお前がアデル様を連れ回すからだ。そのせいで目が離せぬ」 「そりゃぁ悪かったな。って今日はいいのかい? いつもならアデルを連れ戻すころだ」 「今日は特別だ。復活節までもう間がないからな。だが、そうだな。そろそろ帰りましょう、アデル様」  アデルは大人しくヤハに手を引かれ、グインに引かれるのと同じように歩き出す。  特区の入り口を越えて神の塔に至る。目前にした神の塔は薄っすらと白く輝き、やはり神の御業としか思えない威風を誇る。  つまりこれがこの国、もといこの世界の唯一の象徴なのだ。 「じゃあな、アデル。また明日」 「グイン。私はお前に少し話したいことがある。あとで私の部屋に来てくれ」
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