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「佐伯君。私、そんなに困らせちゃった?」
「あ!い、いや!・・・その・・・。」
「返事。後でもいいよ?」
マズい。皇さんがちょっとふてくされたような、ちょっと泣きそうな顔になってる。ええい、ままよ。いいじゃないか。せっかく自分のことを好きだと言ってくれる人に出会えたんだ。付き合ってみればいいじゃないか。今は好きだと思えなくても、今からどんどん、好きになっていけばいいじゃないか。だってもう、僕のことを好きなってくれる人なんて、この先現れるかどうかも分からない。だけど経験が少ない僕でも分かる。彼女の手をとるかどうかで、僕のこの先の生活は大きく変わる。きっと何年も後からこの瞬間を想う時、あそこが分かれ道だったと振り返ることになると分かっていた。それはまるで、頭から電流に打たれたかのような予感だった。荒ぶる波のような運命の揺らぎを感じていた。最後の最後まで、どうしようか迷った。皇さんと付き合った後のこと、付き合わなかった後のこと、僕の中で複数の未来と希望が交錯している。それらの道が実際どう実現するかは分からないけれど、これだけははっきりとしていた。今ここで行動しなければ、僕の人生はこれまでとほとんど何も変わらないだろう。
「お、お願いします。」
僕は、もつれる舌をなんとか動かし、全身に汗をかきながら、しどろもどろになって手を差し出した。
「やったー!!ありがとう、佐伯君!こちらこそ、よろしくお願いします♡。あ、今からは彼氏彼女なんだから、巧君って呼ぶね。巧君も私のこと夢ちゃんって呼んで!」
う・・皇さん。恋愛には結構グイグイ押すタイプなのかな。僕が、リードしないといけないのかな。やっぱり男、だし・・・・。
「う、うん!よろしく!夢ちゃん。」
夢ちゃんは、手汗でビショビショになった僕の手を嬉しそうに握った。僕は、告白された嬉しさとこれからに対する不安の間でグラグラと芯もなく揺れていた。
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