1章

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「ねえ見た?皇先輩って、本当にあの人と付き合ってるんだ。」 「マジで意外だわ。皇さんから告ったらしいぜ。」 「くっそー。僕もアタックしてたのになー。あいつに負けたのだけは、納得いかねえ。」  おーい。皆さん、聞こえてますけどー。  そう。夢ちゃんは、美貌、教養、社交性、色々なものを持ち合わせていながら、入学してから誰とも付き合ったことが無い。入学して僕が夢ちゃんを認識しだした時にはすでに、難攻不落の高嶺の花として、男子たちの羨望の的だった。僕達の学年のミスター文学部に選ばれた高橋が何カ月もかかってアプローチしたけど、結局ダメで泣く泣く引き下がったという話は、今でも語り草である。それから、果敢に挑戦する勇者もいたが、あえなく恋の戦には破れている。  夢ちゃんと付き合ってから僕は、周囲の視線にさらされる、ということがどういうことなのかを肌で実感した。好奇・嫉妬・羨望。どこかで、僕のことを噂したり、陰口を言われたりしてるんだろうな、と思うと億劫になる。友達は、その分良い思いしてるんだから仕方ない、それが対価ってやつだ、なんて僕に言ってきたけど、それは思い違いだと思う。誰かと付き合って良い思いしてるだなんて、そんなの周りが決めることじゃない。上手く行ってるかとか、幸せかとか、どれぐらい良い思いをしてるかどうかなんて、当人にしか知りようがない。当然、人と人が作り上げていく関係に良いものばかりなはずがないじゃないか。僕の友達は、ただ単に可愛い子と付き合えたら、それだけで人生がバラ色になるとでも思ってるんだ。僕は、変に嫉妬されたりすることよりも、そんな恋愛や人への気持ちをそんな単純なものだと思って僕たちのことを勝手に解釈してくるそのことが歯がゆい。
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