2章

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夢ちゃんと付き合ったことで、周囲の僕に対する扱いはさらに変化した。どうやったら付き合えたのか教えろって聞いてくる人もいるし、以前は全然交流が無かった人から話しかけられたりする。でもそういう輩は、僕がまともに質問に答えないのを見ると、結局勝手に失望するか、不満そうな顔をして帰っていく。だってそれはそうだ。僕だって、何で夢ちゃんに好かれてるのかも分からないし、そもそも夢ちゃんと付き合ってるからって、他の女の子誰とでも付き合えるっていう訳じゃない。どうやったら好きな子と付き合えるのかなんて、僕の方が知りたい。だから、周りからはノリの悪い男だと思われて、結局すぐに離れていってしまうことが多い。まあ結局、僕自身に興味があったというわけじゃなくて、夢ちゃんと付き合っているという部分に皆興味を持っていただけなんだから、別にそんな人たちが近づいてこようと離れていこうと僕は何とも思わない。 「なんか、お前も一躍有名人って感じだよな。」  と数少ない僕の友達である、宗太が感想を述べる。宗太は、週に一回は必ず食べている学食のカレーうどんをつるつるとすすっている。宗太は僕の少ない友達でありながら、僕とは違って友人も多く、バイトでも学部でもサークルでも常に人に囲まれているようなタイプだ。意外な組み合わせだね、と言われることもあるけど、僕は最初から宗太とは仲良くなれるような気がしてた。去年のオリエンテーションで同じ班になった時から、微電流のような閃きが僕の体を貫いた。後から話してみると、宗太もなぜか僕とは仲良くなれそうな気がした、という風なことを言っていた。 「止めてよ。有名人っていうか、何でお前が皇さんと付き合ってるんだって感じで見られるんですけど・・。」 「ま、そりゃそうだろうな。」 「そりゃそうだろうな、ってひどくない!?」  他の友達といる時よりも、僕といる時の宗太は随分はっきりとモノを言う。だけど文面だけでは伝わらない、その毒舌の奥に流れる優しさを彼の瞳の色や声の調子から感じられるから、僕は友達で居続けられるのだと思う。 「いやー、だってよ。あの、高橋でさえ相当皇さんに惚れてたのに、ダメだったんだから。あの高橋だぜ?ミスター文学部だし、顔も性格も良いし、車も持ってる。お前はなんか頼りないし、女々しいし、そもそも僕、巧は女より男の方が好きなのかなとかちょっと思ってたんだよ。今だから言えるけど。」 「そ・・・!それは・・・。そうじゃ、ない・・。」 「ま、さすがにそれはないか。」  僕は何と言ったらいいか分からず、沈黙が流れてしまう。宗太の見透かすような目線が痛い。掌には、じっとりと冷たい汗をかく。僕の緊張が伝わらないように、と願う。 「まあだからさ。皆、皇さんそこに行ったのかーって意外なんだよ。」 「もう、僕が釣り合ってないのは分かったよ。」  すると、宗太はポンポンと僕の頭を慰めるように軽く叩いてきた。 「おいおい、すねんなって。別に釣り合ってないとか言ってない。意外だって言ったんだよ。」 「だからその意外っていうのが釣り合ってないってことじゃんか!」 「いや違うって。皆が勝手に考えてた皇さんの求めてるタイプが違ったってことだよ。巧だって高橋に無い良いところたくさんあるんだから。」 「例えば?」 「まず優しいだろ。ま、優しすぎるせいで女々しく見えたり、優柔不断だったりすることもあるけど、お前は心が広い!しかもそれが誰にでも同じように優しくできるじゃんか。それはすごいことだと思うよ。後は、一緒にいるとなんか助けてやりたくなるんだよな。」
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