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これですべてうまくいく
鏡の外に出た鏡の中のリコ、面倒なのでリコ子と呼ぶことにする。
リコ子はニコニコして
「あぁ、やっと夢がかなった。あなたっていつでも自分の思うことが言えないんだもの。」
「私だったら全部うまくやって見せるわ。今日の三者面談も任せておいて。」
鏡の中に入ったリコはもう話すこともできない。
リコ子の動くままに鏡の中で身をひるがえすだけだ。
「じゃ、行ってきます。」
リコ子は明るく言うと、朝食を食べにリビングに向かってしまった。
リコ子がいなくなるとリコは鏡の中の薄暗いところに取り残された。
写る対象がいない時には外も見られないらしい。自分の部屋なのに。
簡単に自分の居場所を譲ってしまったことを大きく公開したリコだったが、リコ子が帰ってきてこの鏡に少しでも触れてくれないと元の世界には戻れない。
少しぼんやりしていたらリコ子が帰ってきた。鏡に指先をつけて話し始める。
「うまくいったわよ。高校には勉強でも陸上でもいいから推薦で入りたいって伝えたし、クラスの中で話さなかった人たちとも沢山話してきたわ。」
「えぇ?それで、お母さんは推薦でもいいって?」
「ええ。どういう方法でも、リコが望む方法でいいって言っていたわ。」
「あなた考えすぎなのよ。」
「ねぇ、じゃ、もう一番の要件は済んだのだから元に戻って。」
リコはお願いしたがリコ子は鏡からスッと指を離すとニヤリと笑った。
「それは都合がよすぎるんじゃないの?私ずっと鏡の中で退屈していたの。」
「一番面倒な所だけ私と交代してすぐに戻りたいって我儘よね。」
鏡の中の本物のリコは青くなったが、リコ子は意に介さないように言った。
そして、青ざめたリコを見ながら残念そうに言った。
「今のは私の本音よ。でも、あなただって同じことを言えたはずなのよ。」
「今度からもうちょっと勇気を出してよね。私の分身。」
「そうそう、残念ながら鏡の中には24時間以内に戻らないと消滅してしまうのよ。一生に一回しかできない特別な一日なの。」
「まだ半日ちょっとだけど、明日の朝お寝坊したら一生戻れなくなっちゃうから、今から入れ替わりましょう。
「今朝と同じようにあなたの左手を出して、私の右手を掴んで引っ張って頂戴。」
リコはリコ子に言われたように手と手を合わせてそっと引っ張った。
今朝と同じように『クルン』と反転してリコは自分の部屋に戻れた。
あまりに衝撃だったのでリコは鏡から手を放し泣き始めた。
鏡の中のリコ子も泣いている。
リコの特別な一日は鏡の中の自分であるリコ子のおかげで、大きく進路がが変わった。
勉強の方で推薦が取れた事。推薦が取れたので部活動を中学3年の最後まですることができて、最後の記録会にも出ることができた事。
そして、クラスのいつものグループ以外の人が話しかけてきたりして、なんだか中学校の残りの時間の友達が増えた事。
リコはリコ子にお礼の為に毎日学校の報告をするのを忘れない。
ただし、『一生に一回24時間だけ』このリコ子のいった言葉を信じきれないリコは、その時は少し鏡と距離はとっているのだけれど。
【了】
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