ギャルと震度20

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「無理はしないでね」  ドールはやーさんに抱きつき、ゴツゴツとした頬に軽くキスをして建物の中へと入って行った。少しだけ赤らんで緩んだ頬をすぐに戻すと、 「IQチームはこの建物の耐久性の確認、もし脆い場所があるなら少しでも長持ちするよう処置してくれ。特に地下への出入り口は念入りに頼む」 計算に長けた学生服に眼鏡を掛けた三人組に指示をし、 「分かった」 三人組は返事だけをしてすぐに行動へと移った。それを見届けると、やーさんの顔はすぐに振り返り、タイガーを強く見つめる。 「震度20が起こったとするなら、どこまでの範囲が被害に遭い、いつこの状況が改善されるのかも分からない」  何が言いたいのかをすぐに理解し、 「食糧と水の確保だね」 タイガーがその確認をすると、やーさんは小さく頷き、 「道路を道と成さない廃墟となった街、お前の記憶力が頼りだ、頼めるか」 絶対にやらねばならぬ事だと、いつもより深く刻まれた眉間の皺が物語る。  普段の生活では無かった事が今の世界では起きている。CHOICE上級編で自分の能力を理解し、それを頼りにしてくれる事が何より嬉しかった。 「もちろん」  タイガーが二つ返事で引き受けると、やーさんの目線はすぐ隣に立つドラゴンへ。 「こういう現場ではお前の沈着冷静さが最適だ。タイガーについて行ってやってくれ」 「あぁ」  言葉少ないが力強い返事をもらうと、やーさんの目は関西弁を通り越して作太郎へと向けられるが、 「観察眼は捨て難いが、あの年齢あの体型ではキツいか」 独り言のように呟き瞼を閉じる。 「あとは俺が一緒に…… 」  この場を離れ、自分も廃墟の街へと向かおうとするやーさんを、 「俺もついてくわ。危ない任務を進行するにはスリーマンセルがええんやろ、漫画で読んだ事あるわ」  関西弁が止めた。だが、やーさんはそれに渋い顔を見せる。 「そんな漫画俺は知らねーし、てめぇは腹の大きい女がいるだろ。側にいて守ってやれ」 関西弁にも地下へ入れと促すも、 「あんたへの信頼と強面の恐怖、的確な指示でバランスが取れて皆んなが動いとるんやろ。そのあんたがここを離れたらどないなる?この状況で皆がバラバラに動き出すんが一番ヤバいんちゃうか」 的を得た答えにぐうの音も出ないでいると、 「近くにいてやるだけが、守ってやる方法やない。俺なりの守り方っちゅうのがあるし、それに…… 」 ピーチへの想いを語りつつ、少し言葉に詰まる。 「それに、何だ? 」 決定を下すだけの理由をよこせとやーさんが急く。 「何か嫌な予感がプンプンしとる。それにスリーマンセル組むならこの三人がベストちゃうか?まぁ、俺の勘でしかないんやけどな」 抽象的な答えだが、記憶力、沈着冷静、そして関西弁の大胆さと行動力、やーさんが思うベストとマッチし、堅い口角を少し上げると、 「はんっ、まぁいいだろ。タイガー、ドラゴン、それに関西弁の三人で街へ向かい、食料と水、それから被害状況を急いで持ち帰ってくれ」 勘が決め手というのは嫌いじゃない、と決定を下した。 「行こう! 」  タイガーは二人に向かって声を上げる。頼りになる二人であり、少しの時間しか一緒に過ごしてはいないが親友のようでもある二人。その二人と冒険のやうな旅へと向かう事に、少しだけ声が弾んだ。その弾みを見逃さず、関西弁はタイガーにヘッドロックを掛けながら、 「おやつは三百円までやで」 ふざけて歩き出し、ドラゴンは、 「遠足じゃないんだぞ」 気を引き締めろと、二人の横につき歩き出す。  揉めたりはしゃいだり、楽しそうに進んで行く三人の姿は、粉塵に包まれた下り坂の中へと消えて行く。その姿を見てやーさんは、 「あいつら三人なら大丈夫だな」 頼もしさに安堵し、再び差配へと向かった。  
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