プロローグ

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プロローグ

1970年、とある写真集が発行され、物議を醸した。 タイトルは、『私のパンプキン・パイ』。ソフトカバーの表紙に、中身はすべてモノクロ写真だ。 40ページにおよぶスクエアサイズの印画紙には、1人の男が満載されている。もじゃもじゃのカーリーヘアから覗く鋭い眼光が印象的で、白と黒と、その中間の灰色に演出された世界には、まるで彼とその魅力を際立たせる“何か”だけしか存在を許されていないようだった。 撮影者の名前はマイケル・P・ホワイト。そう、“あの”芸術写真家である。 商業写真家から芸術写真家へと転身する者はいくらでもいる。つねに新鮮な感性を失わず、作品を製作し続けるために、拠点を移しながら生活する者もいるだろう。 だが彼のように、名前を変え、正体を隠しながら活動を続けた者はそういない。彼はある時はミドルネームであるピーター、ある時は友人から拝借したロバートと名乗り、まったく関係の無いポールと名乗る場合もあった。姓もその場で思いついたものを選んでいた。 ここに掲載された写真のほとんどは、ホワイト氏が亡くなった後、彼の暗室で発見された──もしくはそれらのネガフィルムから(慎重に、そして適切に)現像された──中から選ばれた物で、ある種の狂気と呼んでいい。 なぜならそこに写っていたのは、黒い薔薇か黒い宝石のように美しくも残忍な“シリアルキラー”ジョー・ブラックと、彼の被害者たちだからだ。 これは1人の男を撮り続けた、1人の男の狂気の沙汰である。
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