chap.1 シリアル・キラー

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もじゃもじゃのカーリーヘアから、鋭い眼光が覗いた。ナイフのようにぎらついており、それがたった今、この血だまりを作るにいたったのだとすぐに分かった。 (ジョー・ブラックだ!) マイケルは心の中で叫んでいた。 ジョー・ブラック(The “Joe Black”)とは、4ヶ月ほど前から世間を騒がせている連続殺人鬼(シリアルキラー)だ。満月の夜になると現れ、身なりのいい高齢の女性を襲撃する。金品の強奪を目的としているのは明らかだったが、足取りはなかなかつかめない。市や町を転々と移動しながら、逃走していたのだ。 隣町での被害が出た頃から、マイケルの住む地区でも警官の姿がよく見られるようになった。黒いぴかぴかの丸い帽子を被り、胸の部分が張り出したそろいの服に警棒を携えた、おもちゃの兵隊のような彼らは、広場にある機械じかけの時計のように交代で職務に当たった。やはり人形のように決められたルートをパトロールしたり、聞き込みをしたりするばかりだった。 目撃証言にあったダークカラーの髪と瞳、黒っぽい服装から、捜査では“正体不明の男”ジョー・ブラックと呼ばれ、その名は新聞にも掲載されていた。身の丈はおよそ6フィート(※約1.83メートル。)で、例えるなら大きな影のようだとされていた。 そのような男が、目の前にいる。先刻まで人間だった肉体を傍らに転がして。 その時のマイケルの心境と言ったらなかった! さらに、なんとジョーは大きな体をゆっくりと向けたかと思うと、腕を振り上げて走り出した。口封じのために、目撃者であるマイケルに切りかかったのだ! マイケル・ホワイトはほとんど反射的に、首から提げたカメラを取り、レンズキャップを払いのけていた。 放り出されたボストン・バッグが舗装された地面を滑る。 カメラボディにはグリップ式の小型ストロボが装着されたままになっている。それを左手で握り、右手の人差し指でシャッターボタンを押した。
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