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射抜くような視線に、マイケルはますます興奮を覚える。
「今、ここでこの手を離して君を逃がしたとしよう。だが私には決定的なフィルムがある。これから家に帰って現像し、プリントする。それをやる気のない警察に持って行けば私は捜査に貢献した名誉ある市民だし、ゴシップ好きな新聞社に持って行けば私は勇敢な写真家だ」
残念なことに、まくし立てるように話す調子と胸の高鳴りが一致していないと、マイケル本人は知らなかった。それを聞いたジョー・ブラックがとても不気味な物を見るような目を向けたとしても、気がつけなかったのだ。
ついでに言うと、マイケルは細身であったが、たった今人を殺めたばかりの気が立った獣を封じるだけの力まで持っていた。ジョー・ブラックがマイケルより体格こそ大きく、太い腕を持っていたとしても、食い込む力に顔を歪めてしまったほどだ。
「……何が言いたい」
ジョーが低い声でうなった。手を振りほどこうと抵抗を試みながらも、マイケルの眼を見る事はできないようだった。
「私はこの町で人物写真を請け負う写真家だ。商業誌に寄稿する事もある。だが本当に写し取りたいものは、撮れていない。撮れない事になってるんだ」
マイケルはまばたきひとつせず、ひと息で言った。自身が蝋人形よりも表情のない顔つきになっているのにも、それをシリアルキラーですら不気味に思っているのにも気がつかずに。
「君の──いや、君が所有しているその死体の写真を撮らせてほしい」
「何だって?」
ジョーの方が頓狂な声を上げた。
思わず聞き返してしまうくらい、マイケルの申し出が意外だったからだ。奇妙な申し出はさらに続いた。
「警察なんかに突き出さないと言ったはずだ。この死体を持って、まずは家へ。金が必要なんだろう? 私は独身だが、1人以上が食べていけるだけの収入がある。誰も立ち入らない暗室もある。だから君を匿ってやる事もできる」
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