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 息子二人の「音楽の英才教育」を中断せざるを得なかったのは、才能の問題よりも単純にお金が続かなかったからだと周り中は察してる。  「お金のかかるクラシック」で、門外漢の私でさえ二流だと知っている音大で四年も遊ばせてくれた実家に頼ればいいのに。  お金ならあるんでしょ? 自分で散々言ってたんでしょ? どうしてそうしないのぉ?  ──そこそこ羽振りの良かった母親の実家が、事業の失敗で食べて行くのが精一杯にまで落ちぶれたから、よね?  一般的には高級住宅地って呼ばれてるらしいこの街で、利府家がひと目でわかるくらい土地も構えも他の家より狭くて小さいのも、見栄で無理したからなんだって?  嫌われてると、裏側だけでも噂って光の速さで回るんだってこの年齢で知っちゃったわ。学校ならともかく、いい大人の世界でも。  所謂井戸端会議をしていても、この街に住む奥さまたちの会話は基本的に悪口には行かない。  良いことでなければ当たり障りのない話しか持ち出さない彼女たちが、私の知る限り遠回しにでも嫌悪を示すのは利府家に対してだけだった。
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