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 ああ、また始まった。  しっかり窓を閉めているにも関わらず、遠慮なく流れ込んでくる音の洪水。複数楽器の演奏だ。  でたらめな音じゃなく一応は曲を奏でてはいるんだから、まあ「演奏」なんでしょ。本人たちにとっては。  私だってピアノやヴァイオリン、ギターでもなんでも、音楽そのものを忌避してるわけじゃないわ。でも音楽をやる人、とはできるかぎり関わりたくないとは思ってる。  十七年の人生経験上、関わる価値のある人間なんていなかったから。この「音」の元を筆頭にね。  自分が望んで聴くなら、むしろピアノ曲は好きなくらいよ。心穏やかになれる。あるいは楽しく高揚した気分になれる。  だけど、こちらの意向を無視してただ流れ込んでくる、強引に押し付けられる「音楽」なんて騒音に過ぎない。  技量は問題じゃないの。  たとえ上手くても、聞きたくもないのに強要されるのは音の暴力でしかないのよ。  受験勉強を強制的に中断させられて、私は切れた集中力を何とか繋ぐため水分を取ろうとキッチンへ向かった。
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