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前に出てやらされたら笑いが起こるなど、学生気分が抜けない連中のことが好きになれなかった。よって誰ともつるまず。自分から誰にも話しかけず。……ときを過ごした。
こいつを除いては。
「『火の鳥』ってなかなか渋いチョイスだね感応寺くん」だからなんでおまえは昭和の作品を知っている。伊藤整なんて一世を風靡した作家なのにいまは誰も知らねえぞ。「感応寺くんは、三部作のなかでどれが好き?」
くりくりしたどんぐりまなこに見つめられ、あやうく素直に、発掘、とか言いかけた自分を恥じた。……まつげ長いなこいつ。
そしてこいつはあいも変わらずおれの反応に目ざとく、「……氾濫?」なんて言って笑うのだ。
「きゃーっ『氾濫』あぁあ真田サンダイトほんといいよね化学どんだけ詳しいの伊藤整ってはなし。たまんないよねえ昭和の文学ぅー」……そして密かにこの女と読書の趣味が合うことに驚きを禁じえない。「こってりとした昭和の文学って読み応えがあってたまんないー。……ねえ。感応寺くん、他に誰が好き?☆」
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