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私も手伝える事があるかもと神多羅木家へ向かった。屋敷は両脇の母屋を残し大岩に変わっていた。土石流に乗り移動したのだろう大岩は、瞬間移動でもしたように綺麗に母屋の中央にたたずんでいた。私の目には、それが門を構えた天戸のように映った。
見知った村人たちが遠巻きに集まっていた。若い者でも五十を越えているのだ、みな為す術がなくたたずんでいるように見えた。ただ、できれば関わり合いになりたくないと言うのが本音かもしれない。
神多羅木家の現当主は先代の女当主、比美の婿養子の仁朗さんだった。比美は独裁的な存在だったらしいが、比美の死後を受け継いだ仁朗さんには、それだけの気性もなく土地だけが受け継がれ村人との繋がりは薄いようだった。
「仁朗、大丈夫だったんか」
「離れ家にいたから助かったわ。なんだ、まだ居たんか」
亀さんが瓦礫を踏み大岩の周りを歩いていた仁朗さんに声をかけた。仁朗さんも七十を超えていたが、この村の人たちは足腰が強い。仁朗さんは私を一瞥すると、その場を去っていった。亀さんが居なければ、もっと嫌味を言われていただろう。
「なにか手伝えることはありますか?」
「いんや。知り合いの土木業者に頼むけ、しばらくこのままですわ。先生はのんびりしていてくれりゃいいですよ」
「なるほど、そうですか」
「それよか訃儀の大岩が動くなんて初めてのことですけ、なんも起きんといんですが」
亀さんの視線を追って、私も裏山を見上げた。
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