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出土
私と亀さんが見上げた裏山が騒がしくなった。
「亀さーん! ほ、骨が!」
「どしたー大喜」
村で一番若く同い年の大喜くんが、流れた土砂の上を叫びながら駆けおりてきた。
「大喜くん、どうしました」
「ああ先生……。お、大岩の……。流れた土の下から……。人の骨が……」
大喜くんは咳き込まぬよう、唾を飲み込みながら話した。
「こりゃあ、いったい」
恐々と集まる村人たちと一緒に、私は地面にあいた穴を覗き込んでいた。どうやら大岩の下にあった土質は異なっていて、穴を埋めていた土が流れたようだった。
一部が壊れた穴の底には、石を枕にするように横たわった白骨があった。それは普通に埋葬されたかのようだったが、そこに寄り添うように隣り合う白骨が異様さを際立たせた。
石枕の白骨の方を向いて横たわった白骨は小柄で、その両手で隣人の頬に触れ口づけているようだった。
私は一目で美しいと思ってしまった。保存状態が良いこともあったが、それよりも。この二人はどんな関係で、そしてなぜ訃儀の大岩の下に眠っていたのか。不謹慎にも二人が持つ物語に強く惹かれてしまっていた。
「途中でも土石流があって、警察くるんは遅うなるそうです」
「そうですか。ありがとうございます」
身軽な大喜くんが通報を終えて戻ってきた。
「恋人同士でしょうか?」
「どうでしょう。ただ。手厚く埋葬された訳ではなさそうですね」
亀さんの問いかけに、軽率に答えてしまったことを私は後悔した。それほど亀さんと大喜くんが神妙な面持ちで白骨を見下ろしていたからだ。
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