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たとえ怒られても構わない。
特に好かれてもいないだろうし、嫌われるのもやむを得ない――そう考えただけで、なぜか、心臓をかきむしらずにいられないような気持ちになるが。
ここで彼女をこのトイレに入れられない理由は三つ。
一つは、彼女の鼻腔にあんな悪臭を吸い込ませるわけにはいかないということ。
二つ目は、僕が使った直後のトイレを秋山が使うことに、罪悪感が止まらないこと。
三つ目は、あの匂いが、僕の出したものだと誤解されてはならないからだ。
小だ。僕がしたのは、小なんだ。大じゃないんだ。
正直に打ち明けることも考えた。
しかし、なんの証拠もないので信じてもらえるかどうかは分からないし、下手な言い訳だと思われたらたまったものではない。
ヒエラルキーの高い人間は、およそ、低い人間の話をまともに取り合わないものだ。それが腕っぷしであっても、人気であっても、美しさであっても。順位というのはそういうものだ。
秋山がそういう人間かどうかは知らない。きっと違うような気はする。
だが、普通に考えれば、今個室の中に入れば、その匂いの出どころはトイレのすぐ外にいた人間だと誰もが推理するだろう。
この蓋然性を覆せる材料がない。
嫌だ。
秋山に、臭い匂いをかがせ、その出どころが僕だと誤解されるなんて、絶対に嫌だ。
かといって、もちろん女子の生理現象を無視するわけにはいかない。
既に、策は考えてある。
「秋山さん。ここから五分ほど歩いたところに、もう一つ公園があるよ。そこを使うのはどうかな」
「いや、私、今、十で終わるとしたら九.七くらいまできてるから。無理」
策は潰えた。
「OMG……oops」
「やかましいわ。霜山くん、どうしても邪魔するっていうなら、私は残りの〇.三を、あなたを倒すことに費やす」
「それだと十になって終わるのでは」
「耐えて見せる。私は、あなたの前で漏らすくらいなら死ぬ。死中に活というやつよ」
その支離滅裂さに、秋山さんの限界が近いことが見て取れた。
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