紳士の面の皮

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 翌朝。 心に決めた一大イベントを控え、ジョセフは目覚めた瞬間から上機嫌だった。今日という日をより特別なものとするためには、すべてが完璧でなくてはならない。本当なら仕事を休みたいところではあるが、あいにくの平日である。それに以前読んだFBI捜査官の本によれば、秩序型の連続殺人犯は犯行当日を特別な日と位置づけ、仕事を休むことが多いと記されてあった。普段勤勉なだけに妙な印象付けは回避すべきだろう。  ジョセフには殺人を行う日に限定したルーティーンがある。 ゆっくりと熱いシャワーを浴び、この日のために新調したスーツとネクタイを身にまとう。これに最も気に入っている時計と靴を合わせ、現在では廃盤となったコロンで仕上げる。 少し早めに家を出たら、馴染みのコーヒーショップで普段は頼まないカスタマイズ・コーヒーとペストリーの朝食。同僚の分のコーヒーをテイクアウェイすることも忘れてはならない。皆から感謝されるような善人が夜には殺人を犯すのだ。そのギャップが残虐性を際立たせ、一層高揚する。誰も本当の彼を知らない。知らないのだ。  その後はいつもどおり精力的に働くが、残業だけは辞退する。帰宅したのは七時を過ぎた頃だった。家に入った瞬間、何か違和感のようなものを覚えたが、きっと今日という日が特別なせいだろうと思い直す。夕食はとらず、医療用のガウンとナイロングローブを身に着け、ヴィンテージワインをグラスに注いだら準備万端だ。 「ニコール」 灯りをつけて声をかけたが、背中を向けて横たわったまま反応がない。いよいよ弱ってきたのか、それとも強がっているだけなのか。いずれにしろ構わない。どのみち殺すのだから。 あらかじめ地下室に置いてあったロープを手に取り、ニコールへと歩み寄る。待ちに待ったこの時。早鐘のように鳴る鼓動は犯行を彩るBGMのようだ。そのほっそりした首にロープをかけ、最終的なプランを決定する。初めは失神しない程度にとどめ、その後は様子を見ながら死ぬ一歩手前までを何度か繰り返す。意識が戻るたびに絞首される苦しみと恐怖の連続に、さすがのニコールも音を上げることだろう──そう冷笑した、刹那。
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