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「そうはさせないわよ。クソ野郎」
乱暴な言葉と同時にヒヤリとしたものがこめかみに突き付けられる。それが銃口だと気付いたのは、武装した警察官がなだれ込んできた後だった。
「ああ……」
ジョセフの特別な一日は一瞬で瓦解した。色彩を失った世界でジョセフは今や地べたに抑えつけられている。ひどい眩暈に襲われながら彼が見たのは、慌ただしく行き交う警察官たちの先に立つあの刑事だった。
手入れされていない白髪まじりのヘアスタイルは変わりないが、より深く刻まれた顔の皺が経過した時間と彼の苦悩を物語っている。彼は慌ただしい現場をまっすぐに歩いてくると、組み敷かれたジョセフの前にしゃがみこんだ。
「サリー・ヒースを知っているか?」
途端、『ヒースは荒れ地に咲く野花の名前なのよ』と話した可憐な笑顔がよみがえる。ジョセフが殺した四人目の被害者だ。確か駆け出しの舞台女優だったと記憶している。
表情から察したのか、刑事は得心と失望が入り混じった苦々しい表情を浮かべた。
「俺の孫娘だ。お前が殺して遺棄したのか? あんなにバラバラにして?」
「どうして……なぜだ⁉」
刑事の問いには答えず、シェイクスピア劇のような叫び声が上がる。ジョセフは体中に冷たい汗をかきながら、端正な容貌を歪めて荒い息を繰り返していた。
「なぜバレたかって? 刑事の長年の勘さ」
双眸が驚きに見開かれる。
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