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「ここへ聞き込みに来た時に気付いたんだ。目は口程に物を言うっていうだろう? あんたの対応はこのうえなくお上品だったが、瞳の奥に犯罪者特有の隠し切れない凶暴性がチラついていた。コイツが犯人だと直感したが……いかんせん、証拠がなくてな。初めは誰も信じちゃくれなかった」
ジョセフは確かに刑事の話を聞いている。聞いているはずだが、その内容はまったく頭に入ってこない。
「今日までの一年半、サリーを含めた行方不明者全員の共通点を見つけ出し、失踪した現場を何度も訪れ、警察犬が導いてくれたこの住宅街であんたを監視した。六人目を救えなかったのは痛恨の極みだが、見えてきたものもあったよ。あんたが犯行当日にだけ行う特別なルーティーンさ。こだわりの強さが仇になったな」
ジョセフの顔からあらゆる感情が消え失せる。拭い去ったように、一瞬で。あとに残ったのは圧倒的な絶望だけだ。何という皮肉だろう。追い求めていた絶望が彼自身を襲うとは。
ぐうの音も出ないジョセフを警察官が連行してゆく。その背中を見つめて立ち尽くす刑事にニコールが寄り添った。足取りは弱々しいが、緑の瞳に宿る生命力はすこぶる強い。
「とうとうこの日が来たのね。犯人の絶望を目の当たりにした感想はどう?」
先ほどまでのアメリカンとは全く違うコックニーアクセント。見事な使い分けに感心しつつ、刑事は小さく肩をすくめてみせた。
「なんでだろ? あれほど見てやると躍起になっていたのに、あまりいい気分じゃねぇな」
「あら、そうなの? 私は最高にいい気味だと思ったけど」
ニコールは本当に度胸がある。彼女がいなければ今日の逮捕には至らなかっただろう。
「なぁ、ニコール。本当にありがとよ。すべてはお前さんが協力してくれたお陰だ。いくら警察官とはいえ、サリーの親友であるお前さんに何かあったら、俺は……」
自分を見上げるニコールに孫娘の面影が重なり、言葉に詰まる。彼女は困ったように笑って親友の祖父を抱きしめた。
「きっとサリーが守ってくれたのよ。それに囮捜査のことは私が言い出したんだもの。無事なんだから結果オーライだわ」
間近で盛大にウィンクするニコールと微笑み合い、そして気付く。
ずいぶんと久しぶりだったのだ。心から笑ったのは。
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