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「………………どういうことだ……」
もう一度、丸つけの終わったプリントを確認する。俺は模範解答を渡していない。にも、関わらず、回答の全てに丸がついている。何度も、確認した。やはり、一問の間違いも無い。合っている。全て。
まさか、本当に?
「さっき言ったこと、覚えてます……?」
後ろから声が聞こえる。
「私、今日誕生日なんですよ」
子供とは言い難い、甘やかな色気のある声。
「もう十八歳なんです……『大人』なんですよ」
「――っ!」
心でも読まれたのかと思った。
「ね、先生? お返事、どちらですか……?」
「それは……」
こめかみを抑え、俯く。
混濁した思考がぐるぐると渦を巻いて、俺に襲いかかってくる。
どうする。俺。
「えっと、だな」
言葉に詰まる。
怖がるな! もう大人だろうが!!!!!
せめてYESかNOか、返事をしてやらなければ申し訳が立たない!
「――ふふっ」
不意に、笑い声が聞こえた。
導かれるように振り向く。
そこには……先程の真剣な表情とは打って変わって、にっこりと満面の笑みを浮かべる佐々木の姿があった。
「なぁんちゃって!」
「……はぁっ?」
自分でもびっくりするくらい、間の抜けた、情けない声が出る。にやにやと笑う佐々木。
「もしかしてぇ、本気にしましたぁ?」
怒り半分、安心半分の深いため息をついた。
「佐々木、お願いだから大人をからかうな。最悪の場合、刺されて死ぬかもしれない」
「ごめんなさぁい、くふふっ、センセーの反応、すっごく面白くってぇ!」
こいつ!
「……はぁ」
正直カチンときたが、生徒に見下されているということが分かっただけでも、今日は収穫があった。
これからは対応を改め、もう少し緊張感のある雰囲気を纏った教師になるように心がければ良い話だ。
本当に散々なクリスマスだった……な?
――俺は佐々木の表情を見て、固まった。
「……っ、あれ……っ? おかしいな、ははっ」
気づいてしまったんだ。
冗談なんて、とんでもなかった。
佐々木は強がっていたんだ。
そうでなければ……。
こんなにも顔を真っ赤にして。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら。
泣くわけがないじゃないか。
「じゃぁ、プリントっ……終わったんで、帰りますね!」
佐々木はそう言うと、持ってきた学生鞄や筆箱すら置いて、教室から飛び出す。
「さよなら!!!!!!」
「おい! 佐々木! 待て!!!!」
俺は弾かれたように立ち上がり、年甲斐もなく、廊下を走り出した――。
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