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GOLD TALK
「ヘラヘラして楽に生きてきてなんかないですよ〜、ほんと」
タヌーがGピザをつまみながら、団長が今日言っていた言葉に不満を出していた。ちなみにこのGピザというのは"GOLD PIZZA"のことだ。金の護衛団結成記念ってことで、ここトラ国ではGOLD フェアが開催されている。なので今はほとんどの食べ物に"G"という頭文字が付いている。味はほとんど変わらない。気持ち程度の金粉がかかっているくらいだ。まあ僕たち金付きは、Gのつく商品は半額なので得しかない。ありがたく食べさせてもらう。タヌーの意見には皆、共感しているようだった。
「分かる…僕もすごい大変だったから…」
その大きい見かけとは裏腹に、弱気でネガティブなゾウのゾモゾが心の底から共感している。
「とは言っても、ゾモゾは力あるから多少楽だったでしょ〜?タヌキって中途半端なんだよ。だから結構無理を強いられてさ、毎日毎日、国の防衛と監視とスピーチさせられてさ〜、5歳くらいでシワだらけだよ〜、ほらほら〜」
そう言うタヌーの顔は確かに僕と同年代にしては、老けているように感じる。あとタヌーは語尾を伸ばすクセがあるようだ。
「僕も、鼻が慢性的に痛いんだ…小さい頃から色々させられて、それが残っちゃって…」
「そういうことで言うと〜、俺たちと同い年のキンは綺麗というか、フレッシュな感じするよな〜」
「分かる分かる。同年代とは思えないよね、キンくんの顔つきは…」
ゾモゾの鼻とタヌーの目がこちらを向く。
「え、そうかな。でも二人の話聞いてると、たしかに僕は楽に過ごしてきたのかもしれない」
「キンはここに来るまで、どんな生活してたんだ〜?」
「どんな生活…」
僕は生まれてすぐに皆から祝福されて、その流れのまま、中央国議会の人たちとやらに囲まれて育った。特に国のために動いたわけでもないし、訓練をさせられたわけではない。ずっと経過観察をさせられていたような感じ。家からあまり出ることもなく、どちらかと言うと閉鎖的な生活だった。
「ずっと、家にいた」
「は〜!?最高なの?キツネ国って最高なの?」
「う、うらやましいや…」
タヌーとゾモゾの驚嘆に皆が流される中、女の子2人、ニャゴとウサの反応は違った。
「私もキンちゃんみたいな感じだったかも」
「女子はチヤホヤされるニャ。分かりやすく言うと、お姫様扱いニャ」
カババの大きな笑い声が部屋を包む。
「バババッ!お姫様扱い!それで言うと俺たちは、奴隷扱いって感じか?」
「いや、実験体に近い感じちゃうか?俺らは国の実験台やで、ケケケ」
ブラカラのブラックジョークが決まった。
「やめてくださいよ!僕たちは運命の子なんですから」
キリの言ったその"運命の子"という言葉で部屋が、しん、と静まり返った。今置かれている状況を皆が、再認識した。
「僕たち、金の護衛団なんですよね」
気づくと、ふわっと思ったことが口に出ていた。皆がこっちを見る。
「そうやでキンくん。100年以上前に存在してた"金の護衛団"伝説の復活。そのメンバーや」
「私たちに、できるんでしょうか…」
ウサが不安そうな声を漏らした。
「今はできなくても、成長すればいいだけです。まあ、めっちゃ大変そうですけど〜」
タヌーに続くように、皆が明日へと気持ちを動き出していく。
「とにかく、頑張るしかないニャ」
「僕も…精一杯頑張ります…」
「そうやな。歯食いしばっていこか」
ニャゴ、ゾモゾ、ブラカラの3人。
「胸張って、金の護衛団って言えるようになりたいですね」
僕も、前を向けたような気がした。
「うん、私も覚悟決まった」
ウサも、前を向いた。
「バババッ!皆、同じ方向を向いた気がするね。頑張ろう。僕たちで、二代目・金の護衛団を伝説にしてやろうよ!あっ、言いすぎたかな?」
カババの言葉に皆が笑顔になる。この人は僕たちをまとめてくれる、引っ張っていってくれる、そう全員が思ったはずだ。口にはしないけど、きっとリーダーはカババだ。
首を曲げて、自分のシッポを確認する。金色に光るそのシッポ。僕はこの運命を乗りこなすことができるのだろうか。不安はまだある。
目の前に余っていたGピザに手を伸ばし、口に運ぶ。少し冷めてるけど、美味しい。これが半額。運命の子の、特権だ。
今日のところは、
この金のシッポに感謝しておこう。
そして、明日に向けて期待をしよう。
上を向くと、長細いキリの部屋の換気扇が頑張って、ゴウゴウと働いていた。
換気扇は、全然長細くなかった。
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