訪問者ペンミー

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訪問者ペンミー

金の護衛団結成パーティー(?)がお開きになり、団員は各自の部屋に戻っていった。護衛団になるにあたって、僕たちはこの"タイガー寮"の部屋をそれぞれ与えてもらった。 「キンちゃん、また明日ね」 ウサが僕の部屋の一つ手前で止まり、手を振りながら消えていった。 「じゃあまた…おやすみなさい…」 大きな鼻を重たそうにぶらさけるゾモゾを、見送りながら鍵を差し込み、自分の部屋に入る。 102がウサ、103が僕、104がゾモゾ。 なんとなく、この2人には色々お世話になりそうな気がする。2階の部屋は忘れてしまったけど、僕の上はブラカラで足音の心配はないということだけ確認した気がする。とは言っても僕はどこでも気にせず寝れるタイプなので、何の心配もないけど。疲れたのでそのまま寝てしまおうかと思ったけど、もう一度団員たちの情報を確認してから寝ることにする。これから一生と言っていいほど長い期間を共にするんだ。知っておいて損はない。僕の同い年は、たしか… "ピンポーーーン" チャイムが鳴った。僕に何か用だろうか。 「はい」 そう言いながらドアを開けると、そこには小さな小さなヘビがいた。ヘビで、合ってるか? 「すみません。わちは蛇のペンミーと申します。よろしければ一晩泊まらせてもらえませんでしょうか?」 「あっ、えっと」 蛇で合ってて、まず安心した。実際に蛇と会ったことは無かったので、今回が初ということになる。もっと凶暴なイメージがあったけど、意外と可愛らしい感じだ。まあ、小さいからというのもあるけど。そんなことは置いておいて、僕は今、泊まらせてくださいというお願いを受けた。泊まらせたらダメというルールもないし、まあ、いいのかな。僕はどんな状況でも寝れるからなんでもいいし。 「うん。いいよ」 「ほ、ほんとですか!わち、とっても嬉しいです!感謝です!」 ぴょこぴょこ跳ねるペンミーを、家の中に迎え入れる。ぴょこぴょこしながら、玄関の段差を軽く越え、あっという間に僕の椅子の上に着地した。 「えっと、ペンミーだっけ?ペンミーはこんな所で何してたの?」 「わちは家族で、ここトラ国に旅行に来ていたんですよ。だけど、わちだけ途中ではぐれちゃって。連絡手段もないし、とにかく走り回って探そうと思って動いてたら、もう夜になっちゃって」 「よくこんな奥まで来たね。寮の隣に無料のコインコーあるから、それ使えると思うよ」 コインコー。ほとんどの国での連絡手段として使われているインコで、普段はその名の通りにそれぞれの国の"コイン"を使って利用する。でも、ここに設置されているコインコーは護衛団員専用ってことで、無料で使用できる。金の護衛団は様々なところに融通が効く。とても良い。 「いやいや、大丈夫です!明日になったらきちんと自力で帰らせてもらうので。休ませてもらうだけで、わちは十分です。きっと、もう親も起きてないし」 「そっか。じゃあ今日はゆっくり休んでいってね。僕は何も気にならないから、心配せずに」 「助かります。本当に感謝でいっぱいです。ちなみに、お名前は?」 「僕は、キン。狐のキン」 「キンさん。えっと、改めて蛇のペンミーです。1日だけですがよろしくお願い致します」 「うん。よろしくね」 ペンミーは僕のシッポに興味津々なようで、話しながらもずっとそちらに目がいっていた。こっちがモヤモヤするので、触れることにした。 「僕、金付きなんだ。このシッポはそういうこと。まあそれでいうと、ここは金の護衛団の寮でね、他の部屋の人たちも、みんな金付きなんだ」 ペンミーは固まった。その固まりをゆっくりと時間をかけてほぐしながら、声を出していく。 「金の、護衛団?」 ペンミーが、ぴょーんと大きく跳ねた。 「そ、それって100年前にあった伝説の組織じゃないんですか?復活したんですか?そういうことですよね、キンさんのシッポはどう考えてもそうですもんね!こ、これは大ニュースだ」 「あ、知らなかったんだ」 金の護衛団結成というニュースは、まだ水面下で動き出している段階で、世間にはまだ公表されてない状態なのか。ペンミーにこれを広められるのは、マズイのかもしれない。 「あ、ペンミー。これはまだ秘密のコトだからさ、その、まだ秘密にしててほしいというか、」 「キンさん、分かってます。わちはそういう所はしっかりしてるので、任せてください!」 「うん。ありがとう」 ペンミーがもじもじ、というか、うねうねしている。 「あの…触ってもいいですか…?」 ペンミーが、上目遣いで僕の顔を見つめてくる。ずっと言いたかったのだろう。鼻息が、スコスコと聞こえる。 「全然いいよ」 「やった!じゃ、じゃあ失礼します!」 ペンミーが僕のシッポに絡みつく。 やっぱり、感触はない。触られているはずなのに何の感触もない。生まれた時から、今日までずっと変わらない。ふとペンミーの体の柄が目に入った。 「体に赤い模様あるんだね」 「あ、そうなんです。わちの種族はあるらしくて、名前はえっと…忘れました。えへへ」 そう言いながら、気持ちよさそうに僕のシッポにペンミーは絡み続ける。不思議と、嫌じゃなかった。 子供の頃から、ずっと部屋にひとりでいた僕は、こうやって人と話したりとか、一緒に時間を過ごすことがなかった。だから今、自分の部屋に誰かがいて、一緒に過ごしているというだけで、僕の中の何かが埋まったような気がしていた。 「何日でも、いていいよ」 言った直後に、自分は恥ずかしいことを言ってしまったと気づく。これじゃ、ペンミーのことが大好きだと言っているようなものだ。 「キンさん。お気持ちはありがたいですけど、さすがにそれはできません。今晩だけで大丈夫です」 ペンミーが僕のシッポから離れる。 「そっか。そうだよね」 下を向くと、いつの間にか僕の膝の上にペンミーが乗っていた。 「でも、今晩は一緒にいさせてくださいっ!」 僕の顔に、ペンミーが絡みつく。 「なんだか、キンさんは金付きなのに金付きじゃないみたいです。僕の知ってる金付きの人たちは、もっと悪い感じでした」 悪い感じ。団員の皆からは、そんな雰囲気は感じなかった。そうか。護衛団が結成されなかったというだけで、金付き自体はポツポツと存在していたのか。ヘビ国にも、いたのだろうか。 「キンさんは、落ち着きます…」 ペンミーは僕の顔に絡みついたまま、疲れていたのかスヤスヤと眠ってしまった。 「僕もペンミーといるとなんだか落ち着くよ。理由は分からないけど」 眠っているペンミーの耳にそっと、つぶやいた。僕も眠くなっていた。ペンミーを顔に絡み付けたままベッドに移動して、寝転んだ。 今までで、 1番温かい夢を見れそうな気がした。
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