スクリュー回転

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スクリュー回転

僕とゾモゾが行った時には、すでにグラウンドには全員が揃っていた。 「お、お二人さんきたで。おーい」 ブラカラが遠くからこちらに手を振る。時間的には遅刻ではないけど、なんだか申し訳ないので小走りで向かう。横のゾモゾは思いっきり走っていた。別に遅刻ではないからそこまでしなくても。まあ、なんでもいいか。 「ゾモゾくんは遅そうなイメージだったけど、キンくんも意外とのんびり屋さんなんだね。バババッ」 カババにそう言われて、なんだか否定する気にもなれず、なんとなく「トラパンのんびり食べてました」と答えた。 「キンちゃんも食べたんだ。私も」 近くにいたウサが共感し始めたのをきっかけに、タヌー、キリ、ニャゴと順番に、僕も私もと流れていった。 「いいニャ〜。今日使ってみようかニャ」 デリバリーコインコーを使わなかったニャゴが羨ましそうに、使用済みの僕らを見る。 「ブラカラは使ってないニャ?」 「あー、使ってへんな」 そう答えたブラカラは、なぜか寂しそうに見えた。何かあったのだろうか。実は、食べたけどあんまり美味しくなかった、とか。 "バサァッバサァッバサァッ" コインコーに乗った団長のドラが、いかにも"団長登場"といったように登場してきた。朝から派手で騒がしい人だ。そういえば、放送の声もやけにデカかった。 「よし、揃ってるな。今日から本格的に護衛団として動いていくぞ。準備は…できてるな?」 到着早々テンポの良い団長にぎりぎりついていくように僕たちは「はい」と揃えて返事をした。 「まずは、金チェックからいくぞ」 訳の分からないその言葉に、僕とウサとゾモゾ。3人の声が揃った。 「「「金チェック?」」」 「こんなもんで声を揃えるなよ阿呆3人。なんとなく分かるだろ」 まわりを見ると、僕ら3人以外は特に慌てていない。みんなは、金チェックとやらを理解しているようだ。 「簡単に言えば、金付き部分の強さを計るっちゅうことやで」 ブラカラがうまいこと軽く説明を入れてくれた。でも。 「「「金付き部分の強さ?」」」 またも声が揃った。 「バババババ!最高だ!」 カババが口を大きく開けて笑っている。中の金色が丸見えだ。僕たち3人はお互いの顔を見合って、恥ずかしくなって、少し笑った。そうしていると、シビレを切らした団長が笑い声の中に割り込んできた。 「もういい!俺が全部説明するから。聞け、全員ちゃんと聞け。2度は言わないぞ」 全員、団長へ体を向ける。 「お前ら金付きが全員持っている、金の部分。この部分がただの金色なだけじゃないことは、お前らも今まで生活してきて分かっているよな」 あ。ようやく分かるのかもしれない。僕が毎回感じていたあの違和感。シッポを触られても何も感じない。あの現象。そうか、みんな同じ気持ちだったのか。 「明らかに、硬度が違うんだ。研究結果によると"ゴルドレン"という成分を含んでるらしくてだな、噛み砕いて言っちゃえば《無敵》ってことになる」 「無敵って、火とか水とかも全部平気なのかニャ?」 「そうだ。あらゆる外的影響を受けない。攻守共に優れている。つまり、これが護衛団として活動していくお前らの武器となる」 これが、武器。無敵の武器を持って生まれた僕たちこそが金の護衛団として活動するにふさわしい。そういうことだったのか。シッポに感触がないのも外的影響を受けないからだったのか。そうなると僕のシッポは、お尻に武器がぶら下がってる、みたいな状態か。なんか気持ち悪いような、そうでもないような。 「お前らの持つ金の部分の力をチェックする。これが金チェックだ。もう分かったな?いらない説明で時間を無駄にしたからさっさとチェックに移るぞ。よし、来い!」 「え?来い?」 "ドッッッッッッスンッッッッ" 目の前に大きくて硬そうなコインコーが現れた。僕の3倍はある。これはロボットか? 「こいつからが金チェックに使う"ファイティングメカコインコー"だ。お前らにはひとりひとりこいつらと戦ってもらう。そして、その戦いを見て金の力を確認させてもらう」 「き、急ですね、はは。戦い、ですか」 キリがあまりの展開に焦っている。 きっと、みんな今のキリと同じ気持ちだ。 「言っとくが、別に全然死ねるからな?」 恐怖の言葉が脳の中をぐるぐる回る。全然死ねる?そんなのチェックで済まないじゃないか、ははは。キリのように心の中で笑いが溢れた。 「はいじゃあ、GO!」 僕らと同じ数のメカコインコーが、それぞれの目の前にギュンと早い動きでマークしてきた。 「まあ、俺は昔から護衛やらなんやら、色々やってきたからな〜。お先にいかせてもらうよ〜。それっ!」 一番乗りはタヌーだ。のんびりとした言葉とは裏腹に、タヌーはメカコインコーの顔めがけて、恐れることなく特大ジャンプをかました。 「ターゲットカクニン…」 機械音声と共にメカコインコーの口から、鋭いナイフのようなものが飛び出てきた。 「それっっっ」 "バキッッ"という音が響く。タヌーの"金色の腹"がそのナイフをかち割った。そしてそのまま"金色の腹"でメカコインコーの顔を破壊した。 「ター…ゲット…カ………」 メカコインコーは停止した。 「ふう〜。これでいいのかな、ドラさん」 清々しい顔をしたタヌーが団長の方を向く。 「やるじゃねえか」 次に、カババが動き出した。 「バババッ、いこうか!」 カババはその"金色の口"で、メカコインコーを端から綺麗に噛み砕いていく。 "バリバリバリバリバリバリバリ" あっという間にメカコインコーは跡形もなく、メカのクズだけになってしまった。 「やるしかないニャ!」 「そ、そうだ!やるしか、ないっ!」 ニャゴとキリが、同時にメカコインコーに向かっていった。キリは"金色の首"を大きくなぎ回して、メカコインコーを一刀両断、真っ二つにした。一方のニャゴは"金色の髭"をプチっと抜き、メカコインコーの関節らしき部分に刺していく。髭は無限に生えてくるようだ。プスプスプスと刺し続けているとメカコインコーは誤作動を起こしたのか、内側から爆発を起こした。 「なかなか良いのが揃ってんじゃねえか」 団長のドラは満足そうに笑っている。でも声の揃った僕たち3人組は、まだ動けずにいた。隣のウサ、ゾモゾも、僕と同じように戦況を見ていた。 「ちっ、待つのだりいな。よし、メカコインコー。MUST GOだ」 「ターゲットカクニン」 「えっ?」 メカコインコーが僕らに目掛けて攻撃を仕掛けてきた。動けずにいた僕らに動かざるをえない状況を作られた。 メカコインコーの分厚い手が上から覆いかぶさるように近づいてくる。このままだと完全に潰れる。流石にまずい。動く、しかない。 でも動くといってもどうすればいいのか。このシッポをむやみやたらにぶつけてもなあ…なにかいい戦い方は……えっと… 「あっ」 もう目の前には、大きな手が来ていた。完全に間に合わない。急いで体を捻るように手を避けようとする。間に合うか… "ギュルルルルルルルルルンッ" 「ん?」 体が高速回転した。スクリューのように。 僕は、メカコインコーの手を削りながら上空へと飛び出した。メカコインコーの頭を上から覗く。これなら、いけるかもしれない。もう一度先ほどのように体を捻る。高速回転。その勢いのまま金のシッポを相手に向ける。 「頼む…いってくれ!」 先ほどよりも速度を上げて回転した僕の体からは、火花が散っていた。メカコインコーに突き刺さった僕のシッポは、爆発を起こしたように、激しく、派手に、顔を破壊した。 「はあ、、いけた、のか、、」 目の前には無惨にメカコインコーのクズが散らばっていた。 「やるじゃねえか。キツネ野郎」 団長のドラも認めてくれたようだ。良かった。とりあえず安心だ。あっ、ウサとゾモゾは。 「いやあっ、いやっ、いやっ、やっ!」 ウサはメカコインコーの攻撃を素早く華麗に避け続けていた。その姿はとても綺麗に見えた。ずっと騒ぎながらではあるけど。ウサの"金の耳"は避けながら、ピクピクと常に動いている。ほとんど目も瞑っているように見える。もしや… 「音を…聞いてるのか」 おそらくウサの"金の耳"は相手の動きの音を拾い続けているのだ。その些細な音から相手を分析して避けている。だからあんな芸当ができるのだ。しかも、華麗に。 「もうOKだ。もうチェックはできた」 団長のドラもそれを分かっているようで、チェックをやめさせた。しかしメカコインコーは止まらない。団長はどうするのかなと思っていたら、もう姿はなかった。 「あれ?」 "ガキッッッッ!!" 音の方を振り向くと、ウサと戦っていたメカコインコーは大きな爪痕を残して崩れ去っていた。 「ウサ。お疲れさん」 「え、、はあ、、はあ、、はい、、」 団長の言葉とその姿に、ウサはとにかくほっとしたようで、その場に倒れ込んだ。 「良かったあ…」 そんな団長と倒れ込んだウサの奥から、ゾモゾがゆっくりと歩いてきた。 「僕も…終わったよ…」 「ゾモゾ!大丈夫だった?」 「うん…金の鼻を使って無理やり首を折ったんだ…ぎりぎりだったよ…」 「倒せたならよかった。ゾモゾは大きいし、いざとなれば強いんだよな。やっぱり」 「そんなことないよ…鼻も痛いし…」 すると急に、 "ピーーーーーーーーーーーーー" という音がグラウンドに響き渡った。音の場所にはブラカラと、なぜか固まっているメカコインコーが立ち尽くしていた。グラウンドの外で。 「これも頭脳戦てことで、ええですよね?」 「生意気なやつめ。まあ、いいだろう」 団長が息を大きく吸った。 「全員合格だ!一旦集合!」 合格不合格の話はしてなかった気がするけど、まあ、とにかく僕たちは大丈夫だったようだ。 ブラカラの倒し方をちゃんと理解できていなかった僕は、団長の元に集合しながらブラカラに話しかけた。 「さっきのアレってなんなんですか?」 「さっきの音は活動停止の音や。ああいうメカコインコーには行動範囲制限ってのがあんねん。で、あいつはこのグラウンドが範囲だったんや。そんな気がしてたから、今回は勝手に襲ってくるのを待って、逃げながらグラウンドの外まで誘導したってわけや。手を汚さず勝つのが1番エエからな」 「それで、頭脳戦ってことですか」 「そうやで。俺は意外と頭脳派や」 「とっても意外です」 「それはなんか失礼やぞ!」 明るいテンションで動き回る戦い方だと思っていたブラカラは、意外と頭脳派。そういう僕も自分の体があんなに回転できるなんて、とっても意外だった。小さい頃から動き回ってなかったので、何も知らなかった。僕の戦い方は、きっとあれが軸になるのだろう。金のシッポ。前よりも、この金のシッポのことを信用できたような気がする。そういえば、何か他に気になることがあったような。まあ、いいか。 僕はこれから、ブラカラのような"頭脳派"ではなく"回転派"として頑張っていこう。 いや"回転派"はちょっとおかしいから、やっぱりやめとこう。一旦僕は、"○○派"と空白状態でいい。名前は後でいい。 お尻についている金のシッポが風に揺られた。何も感じないはずなのに、一瞬、風を感じたような気がした。絶対、勘違いだけど。
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