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タイミング
「もし敵襲にあった場合は、即座にチームに別れてもらう。コインコー、持ってきてくれ」
団長の指示で、コインコーが大きな紙をついばみながら持って来た。
ずっと気になっていたのだけど、団長のコインコーはなんでトラ柄なんだろう。無理やり毛の色を変えたのか、それとも元々そういう種なのか。むずむずしてきたので隣のブラカラに軽く聞いてみた。
「トラ柄のコインコーっているんですか?」
「いるやん。目の前に」
「あ、そうじゃなくて、ああいう種類のコインコーが元からいるのかってことです」
「あー、おらんよ」
「じゃあ、あの団長のコインコーは染めたかなんかってことなんですね」
「多分そうやろうな」
すると、ブラカラはなんだか寂しそうな顔をして下を向いた。
「コインコーにはなんでもやりたい放題、悲しい運命の鳥なんや」
「悲しい運命?」
「なんでもない。忘れてくれ」
そう言うと黒い翼を羽ばたかせて、チーム分けの紙を見に行ってしまった。悲しい運命というのはなんなのだろう。ブラカラの出身のトリ国で何かあったのだろうか。そういえば、トリにはあんなに種類がいるのに"トリ国"とひと括りにまとめられている。何か関係が…
「キン、一緒だよ〜〜」
「私も一緒だよキンちゃん!」
ウサとタヌーがこちらに向かってくる。紙を確認する。チームは全部で3つ。えっと僕が……
【特攻】タヌー・キン・ウサ
【戦場把握】ブラカラ・ニャゴ
【守護】カババ・ゾモゾ・キリ
「特攻…嫌な感じがする」
「キンちゃんなら大丈夫だよ!さっき私見えたけどすごい回転してなかった?」
ウサがキラキラした目でこちらを見てくる。たしかにすごい回転をしていた気がするが、またやれと言われたら出来るか分からない。危険を感じて咄嗟に体が動いた。そんな感じだった。
「たまたまだよ。ほんとにたまたま」
「俺、キツネってそういう体の動かし方あるんだなって思った〜。全然そんなイメージなかったもん〜」
「たしかに!でもカッコよかったし良いんじゃない?キンちゃんのオリジナルって感じで!」
ウサの発言には毎回どきっとする。カッコいいはずがないのに。さっきのは本当にたまたまだ。気を抜いたら、何でもない自分に戻る。
「そんな大したもんじゃないよ。今、敵が来たら僕は多分何もできないよ」
後ろから何か気配を感じた。ネコ科の気配。
「えらい消極的だな。そんな姿勢じゃ食糧調達チームにでも回ってもらうぞ」
「あ、すみません団長」
「俺はあの回転、昔に見たことがあるんだよ」
「え?キツネでですか?」
「コンって言う金付きのキツネがいてな。そいつが回転しながら相手を攻撃する所を見たんだ。とてつもない威力だったよ」
金付きキツネのコン。ニャゴが言っていたやつだ。やはりキツネにはそういう習性があるのだろうか。
「キツネは、回転を得意としているんですね」
「いや違う。俺が回転するキツネを見たのはその金付きキツネのコン以外には、お前だけだ」
「えっ。僕だけ」
「お前コンの血を引いてたりしないよな?なんか似てる気もするぞ」
「多分引いてないです。生きてきてそんなこと一切言われなかったので」
団長は少しがっかりそうな表情を見せた後、すぐに濃いシワを増やした。
「とにかく、お前には特攻としてガンガン行ってもらうからな。回転しまくっとけ。それでどうせ平気だ」
「しまくっとけって…」
「まわりが助けてくれるから大丈夫だ」
隣を見るとウサとタヌーが微笑んでいた。
「任せなよ〜〜」
「私は、助けるとかそんなことはできないけど、キンちゃんと一緒なら頑張れるよ」
そうか。金の護衛団はまだまだ始まったばかりだ。皆と手を取り合って頑張っていけば、きっと僕でもついていける。一緒に。1人じゃない。また、僕の心の何かが埋まった気がした。ペンミーの時以来の、この感触。
「あ、ありがとう。えっと、これからよろしくお願いします」
金の護衛団・特攻チーム。頑張ろう。さっきみたいな練習を繰り返して、ゆっくりでいいから成長していこう。どうせ本番はまだまだ後だ。
"ビビビビビビビビビビビビビビ"
突如、耳の奥が痛くなるような音が鳴り響いた。ウサもとても痛そうにしている。きっとあの耳なら、僕の何倍も痛いことだろう。
"警報です、警報です、ここトラ国に未承認の軍隊が侵入してきました、ただちに避難してください、繰り返します"
「笑えないタイミングだな」
放送を聞いた団長の顔はひきつっていた。さすがに、この事態は予測していなかったようだ。
「お前ら、早くも出番だ。もう練習は終わりで、早速本番だ。準備はできてるわけねえけど準備できてるってことにしろ」
護衛団は全員、その場に立ち尽くしていた。
「本番だ…」
団長がコインコーに乗り込んで、大きく上空に舞い上がった。皆、一斉に上を向く。団長も僕らを見下ろしている。
「いきなりで実感してねえだろうが、これが責任だ。金付きとして生まれた責任を全うしろ。これは理不尽じゃない。そういう運命なんだ。運命の子としての自分をやり遂げてみろ」
そうだ。僕たちは選ばれた運命の子。金付き。なりたくてもなれるものじゃない。今、国を守ることができるのは僕たち"金の護衛団"だけなんだ。金付きとして生まれた僕たちだけ。
遠くの空から大きな鳥の影が近づいてきた。その大きな鳥はだんだんと金色を鮮やかに輝かせながら、僕たちの目の前に到着した。
「護衛団専用:Gコインコーだ」
でた。先頭にGをつけるだけのアレ。
「さっさと乗り込め、行くぞ」
僕たちはチームごとに3つのGコインコーに別れて乗り込んだ。侵入者の現れた方向へと一直線に風を切りながら進んでいく。
「ふ〜。さすがにドキドキするな〜」
あのマイペースなタヌーでさえも緊張しているようだ。もちろんウサも。
「侵入者ってなんなのかな」
「おそらく、どこかの国の軍隊だろうね。トラ国が恨みを買っている国とかのね〜」
「そんな国、あるの?」
「トラじゃないから分からないね〜」
「キンちゃんは?なんか予想つく?」
ウサがこちらを振り向く。
「いや…特に」
なんだか嫌な予感がした。
確証も何もないけど、
なんとなくそんな予感がした。
「あっ!!もしかしてあれじゃない?」
遠くに、集団の影が見える。
細長い無数の影。
だんだんと姿がはっきりしてくる。
赤い模様。
細長い体に、赤い模様。
僕は、あの模様と姿を知っている。
僕の顔に巻きついてきた、
温かい感触を思い出す。
僕はざわざわと鳴り止まない心の鼓動を抑えながら、侵入者たちの赤い模様を見つめていた。昨日僕の部屋にいた、あの姿をなぞるように。
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