出会い

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「とにかく…別れてという申し出なんでしょ?オーケーよ」 私が太一に言うと佐藤さんがペコリと頭を下げた。 「森下さん、太一くんを取っちゃってごめんなさい」 「芹那だけが悪いんじゃないだろ?俺が選んだんだ」 「でも…」 グーの両手を顎のラインに当てる人…現実にいるんだ。 「子ども出来て良かったわねと言ったのは、おかげでこれ以上二股を続けられなくて良かったってこと。お幸せに」 私は席を立ち、会社から程近いカフェを出ようと入口を目指す。手に持ったコートを着ようかと立ち止まると、閉まったままの目の前の自動ドアに私と全身に漆黒を纏った男性が映った。 一歩横に避けてコートに腕を通しながらも、込み上げる涙を飲み込み、あの二人の前で泣かなかった自分を誉める。だけど、飲み込むものが多すぎてゴニュ…喉がおかしな音を立て下を向いたまま自動ドアを開けると駅へ向かってノロノロと歩き始めた。 「っ…っく…」 クリスマスを前に煌めくイルミネーションが憎らしいほど目に入る。 「…フラれちゃった…とっくにフラれていたんだよね…夏だって…今は真逆の冬だよ?…私…何してたんだろ…全然気づかなかった…」 昨日まで浮かれた気分で見ていた輝きはみるみるうちにぼやけていった。
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