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目覚め
「ここから離れたいか?」
「…帰ります」
「こことはこの場所という意味ではなく、もっと遠い世界へ離れたいか?」
もっと遠い世界って、どこのことだろう…初対面の男性のおかしな問いかけは当然警戒すべきで、彼の胸に手を当てて突っぱねようとした私の耳に
「「あははっ」」
よく知った笑い声が届いて、また涙を誘発する。
「ここから離れたいか?」
再び問われた私は…コクン、と小さく頷いた。とにかく彼らの声が聞こえない場所へ行きたい。そう思った私はバサッと黒いコートで包まれると同時に、ぐっと彼に引力で引き付けられる感じ…きつく抱きしめられるのではなく、強力な磁力に引っ張られるように彼と体を密着させ、時も呼吸も止まったような絶対真空に身を置いた。いや、正しくはそういう気がしただけだ。だって絶対真空など体験したことがないのだから。
ぅん…よく眠った気がする。静かな深い眠りの余韻をふわふわの枕に乗っている後頭部が…えっ…枕の感触が違う?目を閉じたままゆっくり頭を左右に動かすとやっぱりふわふわだ。違うよ…私の枕はモチモチとした独特の触り心地がする低反発ウレタンで、こんなふわふわとは違うもの。
「…どこ…?」
目が開ききる前に声が出た。すると
「お目覚めですか?すぐにティモテ様をお呼びします」
女性の声がした方を見るが、すぐにドアが閉まった。
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