普通な高校生活を送りたいのです

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 決意新たに正門に着いたところで、わたしはひとつの人だかりを見る。  デジャブ!  人だかりの中心はやはりと言うか、間宮慧である。  入学してから1日しか経っていないのにすでにこれほどの人だかり。  やはり目立つ人物であるということを再確認する。  わたしはその人だかりから距離をおきつつ、人目を避けるように校舎へと向かった。  事情を聴くににしても今ではない。  目立つことこの上ない状況だ。 「花岡千景!」 「ひえっ」  なぜかフルネームを呼ばれたわたしは体がびくりと震えた。  存在感消して歩いていたはずなのに、なぜ!  ギギギ、と音がなるような動きで首を後ろに向ける。  人だかりが割れ、おそらくわたしをフルネームで呼んだであろう間宮くんがこちらに向かってくる。 「あ、お、おはよう~・・・」  一応クラスメイトで顔見知りでもあるので挨拶を交わす。  挨拶大事。  顔が引きつっているのは勘弁してもらいたい。  すると先ほどまで固い表情をしていた間宮くんがふわりと笑った。 「ああ、おはよう。」  瞬間周りがざわつき始める。 「じゃ、じゃあわたしは教室に・・・。」 「あ、待て!」  そそくさとその場から逃げようとしたわたしの手をがっちりつかむ手。  ぶんぶんとその手を振り回すも昨日同様離れやしない。  力が強いな! 「好きだ!」 「・・・・・・・・・・・・は!?」  たっぷり時間をかけて脳を巡ったその三文字に、わたしはその言葉しか出なかった。  いやいやいやいや!  昨日初めて会って!  今日のおはようの次の言葉がそれって!  おかしいよね!! 「ち、千景って呼んでいいか?」  顔を赤くして片方の手で口を押えながら言う間宮くんを顔色をなくしたわたしはただただ見つめる。  なんでそこで照れる・・・。  それよりもこの場の収拾をどうするのか。  さきほど間宮くんを取り囲っていた人たちは遠巻きにこの様子を窺っているし、何よりも通学中の大勢の生徒の目がこちらに注がれているのだ。  終わった・・・。  わたしは平穏な高校生活を送りたいという自分のささやかな願いが、今この瞬間をもってガラガラと崩れ落ちていく音をただただ聞いていた。
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