第2章

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『対処としてはそれでいいんじゃないのか? 自分でどうにかしようと無理をして手に負えなくなったら桜台店だけの問題じゃなくなるからね』  その晩、さっそく原から電話がかかってきた。本当は彼に知られたくなかったが、第一医科大前店への応援を取りやめた理由をきちんと説明しなければならないと思った岸田は、今日の出来事の一部始終を話した。 『でも、運良く林部長がつかまって良かったじゃない。多忙で なかなか手が離せない人なのに』  全くそうだと思った。もし部長が来てくれなければ、あのまま居座られて無理難題を ふっかけられていたかもしれない。 「もし原さんだったら、こんな場合どうします?」 『同じようなことをしたよ。患者さんの苦情を聞いた後とりあえず帰ってもらって、あとで部長と一緒に自宅へ伺っただろうね。そう言えば、主治医には連絡した?』 「はい、今のところ血圧低下は見られないから大丈夫だろうと。『以後、気をつけて下さい』と言われました」 『そうか。患者さんの症状がひどくなくて不幸中の幸いだったな』 「青山さんと川崎さんが相次いで見落とすなんて、ストレスや疲労がたまってるんじゃないかと思うんです。スタッフの数は減ったし俺は不慣れだし。だから、今回の応援は断らせていただきました。本当に申し訳ありません。もう少し店長業務に慣れて落ち着いてたらだし……」 『いいんだ、そんなこと』  原の優しい声が受話口から聞こえてきて、キュッと胸が締めつけられた。  唐突に逢いたいと思った。何もかも ほっぽり出してアパートに駆けつけ、彼の胸で「ずっと寂しかった」と、泣きたかった。  あの告白以来、度々電話で話すようになったけれど、返事を催促されるような言葉は一度もなく、いつも仕事の話と雑談で終わっていた。切る間際『返事はまだなのか?』という雰囲気を感じないわけではなかったが躊躇していた。罪深いことをした自分が『俺も あなたが好きだ』なんて軽々しく言うことが出来なかったから……  だけど、我慢も限界だった。岸田は携帯を握りしめると、迸る思いを口にした。 「…… 逢いたいです」  携帯の向こう側で息を飲む気配を感じた。 「原さんに逢いたいです。この前の言葉…… すごく嬉しかった。決して望んではならないと押さえ込んでいた感情が あの時一気に弾けて、今でも雲の上を歩いているような気分です。もう…… 地獄に落ちてもいいからあなたに逢いたい」  自分でも驚いてしまうほど情熱的な言葉がこぼれ出た。こんな言葉、伊集院にだって吐いたことはない。  しばらくの沈黙の後、静かだが恋慕の情に満ちた声音が返ってきた。 『君から いい返事が聞けてよかった。安心したと言ったほうが正解かな。ねえ、今度の休みは いつなの?』 「今週の日曜です」 『その日、そっちへ行ってもいい?』 「…… ええ、待っています」  岸田は、得も言われぬ幸福感が体に満ちてゆくのを感じた。
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