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第1章 路面の灯り
言うことを聞かない右足をズルズルと引きずりながら俺はか細い路地から這い出した。
黒い道の表面には分厚い水が膜を貼り、黄色から赤に変わろうとしている灯りがそこには映し出され、そしてそれが完全に赤へと移り変わった時、俺は安堵感に酔い潰れた落ち葉のようにフワリと地面に崩れ落ちていった。
「おい!」
「おい!って言ってんだろ」
あ、なんだ?
俺のことか?
聞き覚えのない声に振り向こうとした瞬間だった。突然に左肩を強く押し飛ばされた。
「わっ」
半身の体勢のまま宙に浮いた。
両手で受け身をしようとしたが、落下する勢いに腕の力が負けてコンクリートの階段に強く体を打ち付けた。落ちる前に右足だけでも曲げて体を守ろうとしたが、逆に膝とすねを強打してしまったようだ。
数え切れないほど体が回転した。痛いのか痛くないのか、それすらも分からなかった。兎に角、凄い速さで落ちて行った。
幸いにも頭を打たなかったお陰で気を失うことは免れ、体が止まったところで直ぐに階段上に視線を投げた。人影はもう無かった。
だが、声だけははっきりと耳に残っている。余り甲高くはないが、間違いなく女の声だった。
幾度となく記憶を辿ったが、体が無事であったからか、ゆっくりと気が遠くなっていく感じの中に墜ちていった。
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