607人が本棚に入れています
本棚に追加
部長が周りを見渡して耳打ちしてきた。
「嫁さんが赤ん坊におっぱいやってるうちは妊娠しないらしいぞ。ってことはだ、やりたいだけできるってことだ。それに、奥さんは働いてないんだろ?だったら夜遅くなっても相手してくれるだろう」
「いや、そ、そんなことは……」
部長はさらに近づいて言う。
「男ってのは不思議なもんで、体が疲れてくるとよけいにしたくなるもんだよ、特に君みたいに若いころはな。俺にもおぼえがある。たまには奥さんにスッキリさせてもらうことだな」
なんとも言えない話題に何も答えずにいたら、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「ま、そういうことだから、明日からもよろしく頼むよ。景気が上向いてきたらまた人員の補充もする予定だから」
「まぁ、はい……」
部長に言われてみたら、そんな気がしてきた。
_____そうか、このモヤモヤしたストレスはもしかすると……
部長の言う通りかもしれないと思った。
圭太が生まれてから、杏奈を誘ってもいい顔はしなかった。
ハッキリと断られたことはなかったけど、よろこんで応えてくれることはなくなった。
でも、部長が言うように杏奈は専業主婦だし仕事で頑張っている俺のためなら、相手をしてくれるだろう、というか、それくらいやって当然なのでは?と思えてくる。
これから先の不安と毎日の疲労からのストレスを、妻の杏奈に癒してもらおうと思った。
その日の夜。
帰り着いた時、時計は10時を回っていた。
杏奈と圭太は、もう寝てしまっているようだ。
テーブルには焼きおにぎりとサラダが置いてあり、“遅くまでお疲れ様。私と圭太のためにありがとう”とメモが添えられていた。
少しタバコ臭くなったシャツを脱ぎ、シャワーを浴びてビールを飲んだ。
時計は11時になった。
明日は朝イチから会議があり、その後は少し離れた店舗まで応援に行くことになっている。
14時間勤務になりそうだった。
いつになったらこんな状態から解放されるのだろうか?
このまま不景気が続けば、給料だって下がるのは目に見えている。
_____あーっ!もうっ!
不意にセックスしたい欲望が湧いた。
杏奈を抱きたいというより、ただ単純にしたいという感情だった。
最初のコメントを投稿しよう!