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「まさかそれは私じゃないでしょ?悪い女にひっかかったんですね、なんて私が言える立場じゃないけど」
「そ、そうだよ、付き合ってる人がいるならあんなこと……」
「あー、あれは彼氏が他の女に目移りしてたから、仕返しに私もしてやったまで。特に意味はなかったんです」
「そんなことしたら、喧嘩になったりしたんじゃないのか?」
「バレてないもの」
あっけらかんと言う。
「でもね、“私は知ってるんだよ”って言ったら、即謝ってきたから“まぁいいか”って。最初に知った時は怒りの感情をなんとかしたくてあんなことしたけど、私の中ではこれでおあいこ。アレはなかったことにしてある」
アレとは俺とのことだろう。
「でも、もしも俺が婚約者にぶちまけたら?」
「してみたら?なんの証拠があるんです?ただの頭のおかしなおじさんとして通報されますよ」
_____そうだった
紗枝とのことは、まったくなんの痕跡も残っていない。
「私のことなんかより、早く奥さんと仲直りしたらどうです?どうせ変なプライドで謝ってもいないんじゃないんですか?」
「………」
図星で何も言えない。
「悪いことをしたと思うなら、まずは謝りましょうよ。ほんとに奥さん、というか家族が大事なら、まずは謝らないと。それからですよ色々話し合うのは。
「いまさら謝ったって……」
「はぁ、やっぱりそうだったんですね」
ため息混じりの紗枝の言葉が、じわりと刺さる。
「すぐに謝ってたらもしかしたら、最悪の事態にはならなかったかも?ですね。
奥さんだって、一回くらいは許してくれたかもしれないのに、もう遅いかな?岡崎さんって、そういう相手の気持ちを全然考えてなさそうだし」
俺よりずっと年下の紗枝に説教されてるようで、なんだかとてつもなく居心地が悪い。
「まぁ、岡崎さんの魅力は奥さんあってのものですから、独身になるとヨレヨレですよ。捨てられないように頑張ってくださいね!じゃ」
言いたいことを全部言うと、荷物を持って行ってしまった。
_____謝る?
そういえば杏奈に対して、“ごめん”と一言も言っていなかった。
まずは謝る、仕事でも何回も口にしたことなのに。
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