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夜遅くまで飲んで、終電で家に帰った。
ダイニングの灯りはまだ消えておらず、親父かお袋が起きているのかと思ったら、気が重い。
また説教か愚痴を聞かされるかもしれない。
「……ただいま」
「おかえり、遅かったな」
酎ハイのグラスを片付けながら俺を出迎えたのは、親父だった。
「えっと、たまたま友達と会ったからさ」
「また女じゃないだろうな?」
「違うよ、誰でもいいだろ?そんなことより!」
カチンときて、声を荒げてしまう。
「お前のそういうところは、昔から変わらないな。大事な話になっても自分に都合が悪いと話を変えてしまう……」
「あー、もうっ、1人だよ、1人で飲んできたんだよ。そんなことより、お袋は?」
「なんだ?」
俺と会話しながらも慣れた手つきでグラスを洗い、残ったおつまみもラップをして冷蔵庫に入れている。
「親父、今までそんなこと一切やらなかっただろ?家事というか」
「俺は俺の好きなことをやることにしたからな、自分のことはできるだけ自分でやるよ。母さんの時間を奪うこともあるまい。もう俺も母さんも明日何があってもおかしくない歳なんだからな」
タオルで濡れた手を拭きながら、俺を見た親父の目線は、俺よりだいぶ下になっていた。
_____あれ!親父、こんなに小さかったっけ?
「そんなことより、どうするんだ?杏奈さんと圭太のことは。話し合いはしたのか?」
「………話すよ、そのうち」
「そのうちじゃダメだ、できるだけ早い方がいい」
「なんだよ、親父は俺たちが離婚する方がいいのか?圭太に会えなくなるんだぞ?」
「そんなことはないだろう、杏奈さんのことだから孫としての圭太は、ちゃんと認めてくれるさ。問題は杏奈さんとお前との関係だ。顔を見るのも嫌だとしたら、そんな生活は苦痛でしかないぞ。早くけりをつけてやることが、優しさだろ?」
「………」
わかっているけど仕事が、とは言えない。
「それとも、誠心誠意謝罪して、元鞘なんて考えてるのか?」
「いや、それは……」
「だよな?そんな虫のいい話はない。ごめんなさいって謝って済む問題じゃない」
_____まだ謝ってもいなかったなんて、言えないな
「まぁ、俺なりに考えてるから。もう寝るわ」
まだ何か言いたそうにしていた親父を無視して、さっさと部屋に引っ込んだ。
離婚、仕事、一度に降りかかってきた問題に、何の解決法も見つからず、グダグダ過ごしてしまい、支店長になるかどうかの返事を忘れていた。
結果、今いる実家より少し離れた店舗の厨房の責任者という、一番わりに合わない仕事になってしまった。
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