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「もう、心配したわよ、いきなり倒れるもんだから」
「まぁいいじゃないか、体は特に異常はないみたいだし、こうやって圭太も杏奈さんも駆けつけてくれたんだから」
ベッドの横で親父とお袋が話すのを聞きながら、考えていた。
_____杏奈は来てくれたんだ
離婚すると宣言したあの誕生会の日から、直接会ったことはなかった。
この前、慰謝料も払わないと言った俺なのに、こうやって来てくれた、その事実がとてつもない安堵感を与えてくれている。
パタパタと足音がして、杏奈が戻ってきた。
「お水、買ってきたよ、冷たいままでも大丈夫かな?」
そう言いながら、ペットボトルの蓋を開けてくれた。
「待って、ベッドを少し上げるから」
上半身が少しずつ起こされて、ペットボトルを口元に添えてくれた。
「少しずつね、お腹がびっくりするといけないから」
その言い方がまるで圭太に向かって言ってるようで、おかしくもありうれしくもあった。
こくこくと二口ほど飲んだ。
「うまいな、この水」
「そうなの?よく見かけるやつだよ」
_____違うよ、杏奈がこうやって飲ませてくれるからだよ
そのセリフは、声には出さなかった。
その前に言わないといけないことがある。
「先生の話だと、2、3日も休めばよくなるそうだから。お父さんと私は帰るわね。杏奈さん、あとはよろしく」
「そうだな、この機会にちゃんと話し合いなさい。明日また来るけど、杏奈さん、今日のところはお願いするね」
「はい、わかりました」
「じぃじ、ばぁば、またね」
圭太が2人を見送っている姿を見て、また大きくなった気がした。
_____子どもの成長は早いもんだ
入れ替わりに主治医らしき人が入ってきた。
「岡崎さん、どうですか?どこか痛い所はないですか?気持ち悪かったりしませんか?」
「どこも痛くはないですが、なんだか体が重くて動けないんです」
「それだけ疲れが溜まっているんですよ。この際しっかり休んで体力を回復してください。検査結果には特に悪いものはなかったので、明日の夕方には退院できますよ」
「よかった……」
俺より先にそう言ったのは、杏奈だった。
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