36人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
はぁ…んっとに昨日は災難だった…んであんなところに人が来るんだよ…はぁ…
昨日はあれからずっと金髪碧眼黒シャツホストに拘束されていた。俺としてはサボれる場所をいろいろ探したかった…というのが本音だ。けどあんまりサボって院長に報告されてもな…とも思う。思うが…学校だりぃ…とも心底で思う。そもそも俺はここに学びに来たわけじゃないんだ。そんなことは院長だって知ってるはず…ふあぁ…眠…お…中庭…やば…あったか……
校内を徘徊していた時急な眠気と共に中庭らしき場所に丁度よく日の当たったベンチを見つけそこに倒れ込んだ俺は一瞬で意識を飛ばした──────
うっ…眩し…なんだよ…
「…あ?あん…た誰…」
昨日もおんなじこと言ったわ…てかイケメン…というより綺麗だな…さらさらの銀髪。切れ長の一重は…おお翡翠ってこんなんだった的な輝き…クラスの奴といい生徒会長といい教師といい…みんなイケメンかよ…まあ見慣れてっけど。なんで俺は…はぁ……
「君一般生徒ですよね。何堂々とサボってるんですか。」
「いや…だからあんた誰。てかそれを言うならあんたもじゃないんすか。」
「私は生徒会役員なので授業免除を使えるんですよ。君は…外部生ですか。それにしても入学式で私のことは見ていると思いますが…」
「入学式出てねえし。はぁ…教室戻るから退け。」
ベンチに寝転ぶ俺の上に寝転んで俺の髪で遊ぶ美形さん…を押しのけようとした。…そう、あくまでした。つまりできなかった。なんかさらにぎゅうぎゅう抱きつかれる…んでだよ。
「ふふっ戻る気ありませんよね。」
「……」
何この人…人の心読めんのこわ……てか……
「あのさあ…」
「?なんですか。」
「かわっ…じゃなくて…あー…いや…いいや。」
「言ってくださいよ黒瀬くん。」
こわ…怖…なんで俺の名前知ってんの…こわ…あっ…
「…会長様に聞いた…とか…?」
「ええ。頭の回転が早いですね。…なるほど。授業に出なくてもある程度は支給された教科書で分かってしまう…ということですか。」
「いや…ただ怠いだけでそういう訳じゃないし。」
「…羨ましい…ですね。」
「は……」
美形さんの声のトーンに不思議なものを感じて思わず背けていた顔を元に戻す。でも美形さんの顔は見えなかった。なぜなら…美形さんは俺の胸ですりすり…すんすんしていたからだ。
「は…ちょっ何やってんの貴方。」
「ん…何を言おうとしたんですか。」
「…は?」
「さっき…何か言いかけましたよね。」
「あ…いや…貴方…名前なんての。」
「梨木 紅奈といいます。」
「梨木先輩。」
「はい。」
「いい加減退け。」
「教室まで送ります。」
「いやなんでだよ。しょっと。」
「っ…起きれるんじゃないですか。」
「落とすぞ。」
「…はぁ…好きにしてください。」
あっそ。じゃ遠慮なく。心中で呟いて梨木先輩の腰を支えている腕を少し緩める。
「ひゃっ…!チッ…性格わる…」
おお…出た出た本性。あっ気づいた。ちょっと顔顰めてる。えっは?なんで中庭の奥に…
無言のまま中庭の奥に向かって歩いていく梨木先輩を追う…なんてことはせずに起き上がって中庭に背を向ける。
「黒瀬くん。」
まだ俺になんかよ───っ?!
「痛……」
「よくやりましたね。シフォン。」
「なぁ〜…」
ねこ…猫パンチとか初めて食らったわ…何気に痛い…あ"っークソっ!なんなんだよ…!
「先輩を揶揄うのも大概にしてくださいね。ほら教室行きますよ。またねシフォン。」
っ逃げ─────
「遅いんですよ。大人しくしてください。」
…はぁ……さいっあく…碌なことねえな。
「シフォンは御園さんの猫なんです。」
「いや聞いてねえし。そんで誰御園さん。」
「寮監ですよ。会いませんでした?」
「……」
「今日はちゃんと制服なんですね。」
「まあ…」
「…先程は…すみませんでした。少々イラッときて。」
「ふはっ…いいよ。先輩が何思おうがどうしようがんな事に興味ない。」
「いや多少は持ちましょうよ。…失礼します。」
「あっちょおいっ…」
すごい自然に…それはもう不自然なくらいに自然にSクラスの扉…それも前を開けた梨木先輩の腕を掴み思いっきりこっち側に引っ張って扉を閉める。が─────
こうなるよな…「じゃあ後はよろしくお願いします。」と言って梨木先輩は去っていった……なんでだよ。
「降ろせやくそホスト。つかなんで貴方の授業なんだよ。」
「昨日入学式終わったばっかで決めること多いんだよ。つかお前生徒会の世話に何回なる気だ。」
「警察に世話になったみたいな言い方やめろ。しゃあねえじゃんあいつらどこにでもいんだか────っ?!」
「チッ……」
っは?なんこれミシン針?んでなんで取ったら舌打ちされんだよ。
「おい要俺に当たったらどうすんだ。」
「僕じゃないし。」
「お前の指示だろ。まあ気持ちは分かるが落ち着け。」
「今は委員決めの時間でしょ。そんな不良生徒に構ってないでさっさとしてよ。というかなんであんたみたいなのがSクラスなの。」
「こっちが聞きたいわ。あいつもああ言ってることだし離せって。」
「だーめーだ。絶対逃げんだろ。とりあえず————」
それからは何を言っても無視無視無視で結局昼休みまでホストの膝の上で過ごした。(めっちゃ色んな人に睨まれた。)
そんで昼休み…どうしよ。実際学校に来てもやることなんてほとんどない。まあ授業に出なきゃ普通そうなるだろうけど。もうそろそろ行こっかな…でもなークソビッチな会計様がいるって噂だし……とりあえず食堂行くか。
高く突き抜けるような天井。に釣られるのは大小様々なシャンデリア。いくつものテーブル席に中央には二階席へと続く階段…ここも無駄に広いな。で、なんで席が空いてねえんだよ。あ?なんであいつらの周りだけ…まっいっか。
不自然に開いたテーブル席へのろのろと近づき空いている席に座る。置いてあったタブレットでサンドウィッチとコーヒーを頼みスマホの画面に目を落とした。おっ院長からだ。ん…ん?そこの常識は自分で学べ?はあ?意味h────っ!っんだよ…
目前まで迫ったナイフを咄嗟に掴み取り飛んできた方を向くとちょうどこっちを見ていた数人の生徒たちとぱっちり目があった。まーたイケメンかよ。勘弁してくれ…つかなんでナイフで狙われなきゃならねえんだ。
「ここは俺らの場所や。出て行きぃ?」
はあ?二階席以外はみんなのもんだろ。美人だなくそ。つか制服着んでいいのかよ。和服超絶似合ってるけどな!
「聞いとる?平凡くん。」
「あのさあ…あんたら何様?ちょっと顔がいいからってバカにすんのも大概にしろよ。」
「…ふふっ俺らに口答えするん?おもろいなあ。なあ莉鶴。」
「やめとけよ紫乃。おいお前一年だろ。今日は許してやるから立ち退け。」
「はあ?納得できるか。あんたらに迷惑かけてねえだろ。何が不満なんだ。」
「っお前生意気っ!」
痛っ…速…けど先にやったのそっちだかんな覚えとけ…よっ…!
暴力は全てを壊すと分かっている。けれどやり返さなければ舐められる。…殺される。ナイフは簡単に人を殺れる。人の肉は簡単に裂ける。それをあんたらは理解してるのか。…解らせてやろうか──────
「慎!」
「っ……」
「慎。やめろ。過剰防衛だ。」
「は……会長様…」
「はぁ…紅奈、狼雅、あと頼む。行くぞ。」
「えっ…は?」
「風紀室。いいから黙ってろ。」
会長様に言われたとおりに黙って後をついていく。最後に見えたのは倒れ伏した数人とこちらを睨め付けている最初のふたり────莉鶴と紫乃だった。何故あいつらはあんなにも激昂し判断もせずに襲ってきたのか…ここの常識と関係あるのか?…周りがざわざわとしていて思考がまとまらない。にしても痛えな…
「邪魔するぞ東雲。」
会長様の声にハッと顔を上げるといつの間にか俺たちはどこかの部屋の中にいた。入ってすぐ正面のデスクに座っている…これまたイケメンに会長は声をかけたらしい。
「大体の話は聞いている。皇はもういいぞ。」
「いや未然に防げなかった俺にも落ち度はある。同席させてくれないか。」
「…いいだろう。座れ。」
黒髪短髪イケメンが顎をしゃくった方にある大きなソファに会長に手を引かれて座る。イケメンさんも俺らの向かいに座り膝の上で手を組んだ。うわ…キザ…まあ似合うけど。
「君は1ーS 黒瀬 慎で間違いないか。」
「…ああ。あんたは?」
「風紀委員長 3ーS 東雲 司だ。今回君がここに呼び出されたわけが分かるか。」
「………」
「いくらFクラスの生徒でも気を失うまで打ちのめす必要はなかったんじゃないのか。」
「…Fクラス?」
「A~Eクラスまでの通常のクラスとは違う地位的には最も下のクラス。主に成績下位者、素行不良者の集まりだ。君は今回彼らのテリトリーを犯したゆえに狙われた。」
素行不良者?まるでナイフの使い方を理解してなかったあいつらが?確かに紫乃や莉鶴はオーラが違った。でも他はみんな弱かった…あれは脅し…いや護身用なんじゃないか?
「…ん…慎!」
「っ…悪い。なんだっけ。」
「やりすぎだと言っているんだ。今度からは加減しろ。」
「…さーせんした。」
「罰は自室謹慎。二日間外には出るな。反論は?」
「別に。じゃ俺もう帰っていいすか。」
「保健室へ寄っていけ。皇。」
「ああ。行くぞ。」
「えぇ……」
再び会長に手を引かれて風紀室をでる。案外早く会えそうだなー…と呑気なことを考えているとドンっと前を歩いていた会長にぶつかった。つまり会長が歩みを止め俺がそのまま会長に突っ込んだということだ。黙って顔を上げるとこちらを向いていた会長は─────
存外柔らかい手つきで殴られた方の頬に触れてきた。それに少しの驚きと多分の呆れが沸いてそれをそのまま声に乗せ会長に訊く。
「何。」
「いや…厄介ごと起こすなよ。」
「しゃーねーじゃん。仕掛けてきたの向こうだしFクラスなんて知らんかったし。」
「まあ…そこは周り見ろよ。」
「…わあったって。今度から気を付ける。」
「んと頼むぞ。」
「ハイハイ。どうでもいーけどこの棟誰もおらんな。」
「特別棟だからな。生徒会室は風紀室の上。保健室は隣の棟の一階だ。」
「へーじゃさっさと行こうぜ。はよ帰りたい。」
「おまえなあ…学校サボれるとか思ってるだろ。」
「んなわけねえじゃん。がっこ来れなくて残念ー」
「はぁ…ったく…」
そのあとも会長様にぐちぐち言われながら桜が織った絨毯の上を四棟一階───保健室へ向かった。
「失礼します。」
最初のコメントを投稿しよう!